理化学研究所(理研)は、同所環境資源科学研究センター植物免疫研究グループのトーマス・スパレック国際特別研究員、若竹崇雅特別研究員、白須賢グループディレクターらの国際共同研究グループが、寄生植物が植物ホルモンであるサイトカイニンを使って宿主植物の成長を操作し、効率のよい寄生を実現していることを発見したことを発表した。この研究成果は5月2日、米国の科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」への掲載に先立ち、オンライン版に掲載された。

宿主植物から栄養を奪う寄生植物と組織の肥大(出所:理研Webサイト)

寄生植物は、さまざまな作物に寄生し収穫量を大幅に減らす農業上の有害植物であり、その対策を講じる上で寄生植物の生理機能や成長の制御をどのように行っているのかを理解することが重要となっている。

寄生植物は根に吸器と呼ばれる侵入器官を形成し、それを介して宿主組織に侵入、維管束を連結することで、宿主植物との連絡を確立しているという。寄生植物はこの連絡を介して水や栄養を宿主植物から奪うと同時に、さまざまなRNAやタンパク質などの物質が寄生植物から宿主植物へと移動することが知られているが、それらの役割についてはこれまで明らかになっていなかった。

このたび研究グループは、寄生植物に寄生された宿主植物の組織が異常な二次成長をして肥大することに着目した。二次成長は、サイトカイニン(細胞分裂の促進や茎葉の形成などの形態形成に作用したり、葉の老化の抑制や窒素栄養の情報の伝達にかかわる植物ホルモン)によって促進されることが知られており、サイトカイニン応答を蛍光タンパク質レポーターで可視化したところ、寄生成立とほぼ同じタイミングで、寄生植物と宿主植物の双方でサイトカイニン応答が観察されたという。

また、サイトカイニンについてさらに研究を進めたところ、寄生植物が生合成したサイトカイニンが宿主植物へと輸送され、宿主植物のサイトカイニン受容体を介してサイトカイニン応答を誘導し、その結果異常な二次成長が引き起こされることが判明したという。さらに、維管束組織の肥大が効率のよい寄生に貢献していることも明らかになったということだ。これにより、寄生植物は宿主植物の栄養の運搬経路である維管束を太らせることで、効率的な栄養奪取を可能にしていると予想されるとしている。

この成果は、寄生植物由来の物質が宿主植物の成長に影響を与えることを示した初めての成果であり、今後は寄生植物から宿主植物へと移動する生物活性物質を探索する際の重要な基礎になると期待できるということだ。

寄生過程のモデル(出所:理研Webサイト)