お茶の水女子大学(お茶大)と京都大学(京大)は4月27日、数学とコンピュータによるシミュレーションによって時差ボケの原因を解明し、薬などを使わずに時差ボケを軽減する方法を提案したと発表した。

同成果は、お茶の水女子大学基幹研究院 郡宏准教授、京都大学薬学研究科山口賀章助教、岡村均教授らの研究グループによるもので、4月26日付けの科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

日本からアメリカに移動したときとヨーロッパに移動したときでは、アメリカへの移動のほうが辛いと感じる人が多いことが経験的に知られている。明暗を切り替えることによってマウスに時差を与える実験においても、日本からアメリカ西海岸に移動するときのように8時間早く朝や夜が来るようにした場合は、新しい昼夜のリズムに順応するのに1週間から10日程度の時間を要するが、日本からヨーロッパに移動するときに経験するような8時間遅らせる時差に対しては、3日から4日程度で新しい昼夜のリズムに順応するという。

時差ボケの原因は体内時計にあるとされている。体内時計は体じゅうの細胞1つひとつが持っており、これを時計細胞とよばれる脳内の神経細胞の集まりが束ねている。時計細胞は各々が約24時間周期で遺伝子発現を繰り返しており、このリズムのタイミングを集団で合わることによって全体で強いリズムを作り、体じゅうの細胞に影響を与えることによって体内時計が機能している。過去の研究から、時差を与えると脳内の時計細胞のリズムが大きく乱れることが知られていたが、その詳細は明らかになっていなかった。

今回、同研究グループは、リズム集団の振る舞いを数式で表し、その数式を解いたりコンピュータシミュレーションを行ったりすることによって、時計細胞集団のリズムを予測。この結果、現地時間が遅れるような時差の場合、時計細胞のリズムは現地の昼夜のリズムよりも先行した状態になるが、集団のリズムは揃ったままで、数日で現地のリズムに合わせられることが明らかになった。一方、現地時間が早まるような時差の場合、時計細胞のリズムが昼夜のリズムより遅れるだけではなく、集団のリズムがバラバラになってしまい、全体としてのリズムがほぼ失われた状態に陥ることがわかった。

時差が与えられたときの体内時計(脳内の時計細胞群)の様子 (出所:京大Webサイト)

このように時計細胞のリズムがバラバラになるのを防ぐことができれば、時差ボケから早く回復できると予想した同研究グループは、8時間の時差を2日間にわたって4時間ずつ与えるシミュレーションを行った。この結果リズムはバラバラにならず、時差からの回復が数日早まることを確認。さらにネズミを使って同様の実験を行い、シミュレーションの予測どおり、時差ボケからの回復が数日早まることを確認した。

同研究グループはこの結果から、アメリカ西海岸に行く際の時差ボケは、旅行の1日前に、普段より数時間早起きすることで軽減できると提案している。一度に経験する時差を短縮し、脳内の時計細胞がバラバラになるのを防ぐことで、その後の順応がスムーズになることが予想されるという。ただし、12時間の時差などの長い時差に対しては、6時間ずつにわけると逆によりひどい時差ボケになることがシミュレーションで予測されているので、注意が必要であるとのことだ。