拡大を続けるバッテリ駆動型のモバイル機器の分野に大きな影響を及ぼす、多くの原動力が存在します。メーカーは熾烈な競争を繰り広げている市場において、競合メーカーより優位に立つことを目指しており、スマートフォン(スマホ)やタブレットPCなどのようなモバイル機器は、ますます多様な機能を搭載するようになってきました。

同時に、これらの製品はコンパクトでスリムな外観を維持する必要があります。しかし、最も重要なことは、今日、人々のライフスタイルは、どこにいようと何時であろうと、絶えずネットワークにつながっている状態にあることを重視しています。これらをまとめると、次のように結論付けることができます。すなわち、バッテリの稼働時間がきわめて短くなり、1日のうちに何回もモバイル機器を再充電する必要が生じているということです。

このような状況のため、モバイル機器のバッテリおよび充電用の外付けバッテリなどで構成される「パワーバンクビジネス」は活況を呈しています。今後10年間で、20%以上の複合年間成長率(CAGR)を達成し、2020年までに年間評価額として178億ドルに達すると推定されます(Markets & Marketsによる市場調査)。この市場は拡大が続き、大きな差別化が進んでいるので、パワーバンクのサプライヤは積極的に消費者の要求に応えることが求められています。

市場の成熟でハードルが高くなるパワーバンク製品

市場の成熟化が進むと、消費者の多くは、選択するパワーバンク製品に、より多くの機能などを期待し、単なる充電だけでは満足できなくなります。そのため製品サプライヤは、以下のような機能を満たす製品の市場投入に関して、大きな圧力を受けることになります。

  1. 充電速度の高速化 - パワーバンクにモバイル機器が接続される時間は、ユーザが不便を感じないよう、できるだけ短縮する必要があります。ハイパワーUSB充電(高電圧サポート付き)やUSBタイプCコネクタ(高電流に対応可能)の登場がこの実現に貢献します。
  2. 洗練されたスタイリッシュなフォームファクタ - 充電するモバイル機器と同様に品質が高く、見た目の良いパワーバンクが求められます。モダンな新型スマホに数百ドルを費やしている消費者が、不格好で粗末な、安っぽい外観のパワーバンクに接続しなければならないとしたら、とても満足するとは思えません。次世代パワーバンク製品は、モバイル機器と同じように進化しながら、低背化や最先端の高いデザイン性を追求する必要があります。
  3. 大充電容量 - 当然ながら消費者は、パワーバンクから(サイズと価格に見合った)できる限り多くの電力を得ることを希望します。
  4. 高機能 - 詳細な動作データや有用な動作診断メカニズム(下記参照)を利用できることが必要です。
  5. 他のスマホメーカーが現在導入している独自の充電プロトコル(QualcommのQuick Chargeなど、必要と考えられるハンドシェイク・メカニズムを含む)との互換性が要求されます。
  6. 効果的な保護 - 十分な充電レベルを確保しようとすると、小型フォームファクタや高電流のために、パワーバンクは大きな熱ストレスなどに晒される可能性があります(特に仕様範囲外の温度など、不適切な使用)。

動作データの表示

初期のパワーバンクには、バッテリ残量を示す表示ランプしかありませんでした。その後のモデルは、バッテリ残量が大まかに把握できる簡単なインジケータをサポートしていましたが、これもまだ原始的なものです。充電先であるスマホ(または他のモバイル機器)で高性能なユーザ・インタフェースが利用できるのに、なぜそれを利用しないのでしょうか。USBインタフェースを経由して、パワーバンクからスマホにデータを転送すれば、さまざまな重要パラメータを表示できます。これによって、ユーザ・エクスペリエンスが向上するため、パワーバンクのサプライヤは製品の差別化を可能にする貴重なUSPを活用できます。

パワーバンクの1種である外付けモバイルバッテリーのスマートフォンとの接続イメージ

安全性の確保

不適切な使用や製品自体の故障が原因で、パワーバンクが火災を起こす危険性が確認されています。標準的なパワーバンクには、異常温度時にも充電が停止しないなどの問題に対処するのに必要な、インテリジェンスが欠落しています。次世代のパワーバンクでは、周囲環境への影響を考慮できるよう、監視システムを配置する必要があります。また、潜在的に危険な状況が生じた場合にも、迅速に対応できるよう、総合的な保護機構が必要になるでしょう。

パワーバンク技術への新たなアプローチ

パワー半導体ベンダは、パワーバンク・メーカーに、現在求められている数多くの要求に応える豊富な機能を備え、高度に統合されたハードウェアを供給できなければなりません。オン・セミコンダクターは早くから、パワーバンク市場が拡大する可能性があることを認識し、これをサポートする革新的な技術を開発してきました。

例えば「LC709501パワーバンク・プラットフォーム」は、次世代パワーバンク製品を構築するための基礎となる、高度に統合された1チップ・ソリューションを提供します。小型ボードは業界をリードする電力密度を提供しており、前述したスペースに制限のある次世代デザイン向けに高度に最適化されています。LC709501は、iOS、Android、およびWindows用のコンパニオン・アプリと連携し、実質上あらゆるスマート・デバイスと接続できます。USB 2.0フルスピード・ホスト・コントローラを統合し、USBタイプC接続を提供しています。このプラットフォームは、異なる電源タイプを検出し、パススルーを提供して電力を増幅でき、5V/9V/12Vの出力電圧に対応します。Quick Charge動作やFast Charge動作は、対応機器に接続するだけで提供可能です。また、過電流検出、過電圧検出、安全タイマ、冗長バッテリ保護、温度監視など、多数の保護機構も備えています。バッテリの動作状態を考慮した適応充電アルゴリズムの実装により、エネルギー保存容量を最大化し、バッテリの寿命を延長できます。さらに、安全性も強化できます。

ON Semiconductorが提供する「LC709501パワーバンク・プラットフォーム」のパッケージと活用イメージ

パワーバンクをスマホに接続すると、革新的なアプリである「Power Bank App」が始動し、スマホのフロント・スクリーン上にアイコンが表示されます。ユーザがこのアイコンをクリックすると、バンクのエネルギー残量の割合、使用可能な時間、バンクの温度、使用中の充電モード、(実行済み充電サイクルに基づく)バンク動作状態に関する情報を取得できます。サプライヤは、ユーザー・インタフェースに会社のロゴを表示することで、このアプリに独自のブランディングを追加することができます。

結論

最新のライフスタイルからも、パワーバンク製品は間違いなく今後数年間にわたって、注目を集めることでしょう。優れた動作効率、ユーザ・エクスペリエンスの改善、信頼性向上に対する要求に応えるために、これらの製品のさらなる洗練度の向上が必要です。これは単に電源管理だけの問題ではなく、ヒューマン・マシン・インタフェース(HMI)、診断、保護などの各要素も対象となります。

著者プロフィール

Matthew Tyler(マシュー・タイラー)
ON Semicondcutor
ストラテジックビジネスディベロップメント
マーケティングディレクター

半導体業界で15年以上にわたり、設計、システムアーキテクチャ策定、製品仕様策定、マーケティング、戦略策定の職務を経験。現在、同社のアナログソリューショングループにて、高成長分野における新製品のコンセプト立案、他企業・外部団体とのパートナーシップ構築、グローバルマーケティング活動と戦略立案を担当する。デバイス製造、ESDとラッチアップの管理、センサ、電力アプリケーションを含む広範なテーマで10件の特許を保持している。