東京大学は、同大学大学院工学系研究科の若月良平大学院生、斎藤優大学院生、同研究科の岩佐義宏教授(理化学研究所創発物性科学研究センターチームリーダー兼任)、永長直人教授(理化学研究所創発物性科学研究センター副センター長兼任)らの研究グループが、原子膜材料である二硫化モリブデン(MoS2)の電気二重層トランジスタ(EDLT)構造を用いて空間反転対称性の破れた2次元超伝導体では、特定の方向に磁場を加えた状況で整流特性(ダイオード特性)を示すことを発見したと発表した。この成果は4月 21日、米国のオンライン科学雑誌「Science Advances」に掲載された。
電気抵抗がゼロになる現象である「超伝導」は、消費電力を発生することなく電気を流せるため、省エネルギーにつながる技術として期待されている。特に超伝導体の集積化は、次世代のコンピューティングシステムで非常に重要な役割を担うため、超伝導体の集積化において超伝導ナノエレクトロニクスの新機能の開拓が広く求められている。中でも超伝導ダイオードの実現は超伝導ナノエレクトロニクスの発展の上で極めて重要であり、空間反転対称性が破れた常伝導体結晶では整流性を持つことが最近の研究で明らかにある一方で、空間反転対称性の破れた超伝導体の整流性の研究は今まで行われていなかった。
研究グループは、二硫化モリブデン(MoS2)の高品質な単結晶を用いて、電界効果トランジスタの一種であるEDLT構造を製作した。この構造では超強電界によって誘起された電子の集団がMoS2の単結晶表面に蓄積できるため、極めて薄い2次元超伝導を人工的に実現できる。さらにMoS2では単層構造で面内の反転対称性が破れているため、EDLTによってほぼ単層でかつ空間反転対称性が破れた超伝導を実現していることになる。
同研究では、作製したEDLTデバイスの面直方向に磁場をかけた状態での電気伝導特性を測定し、電気抵抗の倍周波成分における整流特性を調べた結果、常伝導状態では極めて小さいが、超伝導状態では極めて大きい整流特性が観測されたという。さらに、 この整流特性は温度を下げると増大することも発見するとともに、超伝導転移温度近傍において、現象論的に超伝導転移を取り扱うギンツブルグ・ランダウ理論に基づく理論解析によりこの機構を解明したいうことだ。なお、整流特性の飛躍的増大は、フェルミエネルギーと超伝導ギャップというふたつのエネルギースケールの比から説明され、一般の空間反転対称性の破れた超伝導体でも同様の効果が期待できるという。
この研究では、反転対称性が破れた原子層1層分の厚さの2次元超伝導体で新しい原理の整流特性を発見し、さらに空間反転対称性が破れた超伝導体に普遍的な現象であることを示した。このような整流特性や電流の非線形応答は、空間反転対称性が破れた超伝導体に普遍的な現象だと考えられる。
これらの成果は、整流特性がエキゾチックな結晶構造が示す機能性の探索を推進させるのに加えて、空間反転対称性の破れた結晶における非線形電気伝導研究という新たな学術分野を切り開き、次世代の超伝導ナノエレクトロニクス材料の機能開拓をしていく上で重要な知見を与えることが期待できるとしている。