ディー・エヌ・エー(DeNA)と横浜市は24日、自動運転社会を見据えた新しい地域交通のあり方を検討する「無人運転サービス・AIを用いた地域交通課題解決プロジェクト」を開始した。

同プロジェクト最初の取り組みとして、DeNAの自動運転バス「Robot Shuttle(ロボットシャトル)」の一般向け試乗イベントが、金沢動物園にて実施される。実施日時は4月27日・28日、10:00~15:00(※雨天の場合は中止)。乗車料は無料(※動物園への入場料は別途必要)。

左から、DeNA 執行役員 オートモーティブ事業部長 中嶋宏氏、横浜市経済局 林琢己氏、金沢動物園 園長 原 久美子氏、動物園で飼育しているフクロウと飼育員

横浜市とDeNA、野球だけでなく交通課題の解決でも協業

「ロボットシャトル」は、2016年7月にDeNAが日本国内へ導入した、仏EasyMile社の自動運転車両「EZ10」を利用した交通システム。これまでにも、千葉県のイオンモール幕張新都心に隣接する公園や秋田県仙北市の田沢湖畔、九州大学伊都キャンパスなどで、一般客を乗せて走行した実績がある。屋根のDGPSセンサー、前後のカメラ、ホイールの走行距離計と慣性計測装置を用いて車両の位置を検出し、あらかじめ決められたルートを走行するもので、今回の実証実験でも指定ルート(片道約180m)を何度も往復する。

「ロボットシャトル」外観・内観。定員は12名(座席は6名)だが、今回は8名までの乗車に限定。実証実験であることから、安全面でのバッファを持たせた運用を行う

また、今回の「ロボットシャトル」運行を含む「無人運転サービス・AIを用いた地域交通課題解決プロジェクト」は、横浜市とDeNA、横浜DeNAベイスターズ、横浜スタジアムの4者で2017年3月に締結した、スポーツ振興と地域経済活性化に向けた包括連携協定(I☆YOKOHAMA協定)における取り組みのひとつ。また、横浜市がIoTなどを活用したビジネス創出に向けて2017年4月に立ち上げた「IoTオープンイノベーション・パートナーズ(I・TOP横浜)」の活動としても位置づけられている。

「IoTオープンイノベーション・パートナーズ(I・TOP横浜)」概要

「ロボットシャトル」実用化は2018年が目標、公道での実証も視野

同プロジェクトの動機は、横浜市において「高齢化の進展による交通弱者の増大」が深刻な交通課題になりつつあること。無人運転で地域の交通課題を解決し、新たな地域交通のロールモデルを構築する。「ロボットシャトル」について、2018年に私有地での実用化をめざすほか、2019年以降、公道における無人自動運転サービスの実証を行う想定だ。

「ロボットシャトル」のロードマップ(左)、これまでの実績(右)

今回の試乗イベントでは動物園内の道路を走行するため、キリンやサイなどの動物を車内から見ることができる。DeNA 執行役員 オートモーティブ事業部長 中嶋宏氏は、「今回は動物の見えるコースとなっているが、動物園の駐車場から入り口までなど、坂の下から上に移動する方が実際の交通ニーズには近いと考えている。費用対効果を見ながら、今回の試乗をきっかけに(運行コースを)広げられれば」と語った。

実際、金沢動物園の付近は坂が多く、増加の一途をたどる交通弱者はもとより、公共交通機関を利用している一般来場者にとっても移動が困難な面がある。自動運転バスの実用化が実現すれば、生活における利便はぐっと高まりそうだ。

「ロボットシャトル」には車いす用のスロープも内蔵

ドアの開閉はボタンで行える。現在は安全面からアテンドするスタッフが操作しているが、設計思想としては乗客の操作を想定しており、いずれは「エレベーターのように」(中嶋氏談)乗客同士で融通するかたちを理想としている

安全面を担保するため、緊急停止ボタンや安全制御装置、障害物検知用レーザーセンサー、緊急ブレーキなどを装備。園内での運転ではこれまでの実証実験よりも低速で運転する。緊急ブレーキなどの設備よりも、それを使わないようにするための事前のアセスメントが重要ということで、飛び出しの恐れがある箇所ではあらかじめ減速するように設定されているとのことだ。

試乗ルートではキリンなどの動物のそばを通るため、社内から姿を見ることも可能。乗り心地は一般的な小型バスと大きく変わらないが、運行音

DeNA 中嶋氏は、実証実験の意義は技術面の運用テストというよりも、ひとりでも多くの利用者が自動運転バスを安全に利用することで、未体験の事物に対する恐れを払拭してもらうことにあるという。実際、DeNA広報部によれば、これまで複数回行ってきた一般向け試乗では、乗車前には自動運転の安全性に懸念を抱いていた人たちも、乗った後にはポジティブな印象に変わった例が多くあったそうだ。

今回の試乗イベントにおいても実用化に向けて、乗車した方々よりアンケートを集める予定。こうした利用者の声が今後の開発に活かされ、まずは2018年の私有地内での「ロボットシャトル」実用化に一歩近づくことを期待したい。