慶應義塾大学(慶大)は4月14日、有機薄膜デバイスの構成要素であるアントラセン分子の単層結晶薄膜を室温で形成させ、光電変換過程における電荷分離の様子を明らかにすることに成功したと発表した。

同成果は、慶應義塾基礎科学・基盤工学インスティテュート 渋田昌弘研究員、中嶋敦主任研究員らの研究グループによるもので、4月11日付の米国科学誌「ACS NANO」オンライン版に掲載された。

機能性有機分子薄膜による光電変換デバイスの光電変換効率向上のためには、有機分子が規則正しく整列した高い結晶性をもつ薄膜を作製する必要がある。しかし、従来の薄膜作成手法では室温で高い結晶性を確保することが難しく、光電変換効率に限界があった。また、光電変換の機構を明らかにするためには、優れた結晶性を有する薄膜について超高速の光励起過程を精密観測することが求められていた。

同研究グループは、アントラセン分子に鎖状のアルカンチオールを連結させた分子の溶液に金の基板を浸漬することで、分子同士が集合して整列することによる組織化を促進させ、室温においてアントラセン単分子薄膜を作製。走査型トンネル顕微鏡(STM)などでその表面形態を調べた結果、アントラセン分子が規則正しく表面に整列し、均一な有機単層膜を形成していることがわかった。

さらに、この単層結晶薄膜における光励起過程をフェムト秒時間分解光電子分光により調べたところ、結晶薄膜中の励起子と表面上に広がった励起電子とがエネルギーを授受する現象を観測することに成功した。一般に、表面上に広がった電子状態は、分子に局在している励起子とは強く相互作用しないが、分子が整列して単層結晶が形成されると、励起子が単層内を広く動き回れるようになるため、エネルギーの授受が可能となったものとみられる。

同研究グループは今回の成果について、有機光電変換デバイスを高効率化するための基盤技術として利用価値が高いものと説明している。

ア:アルカンチオールにアントラセン骨格を化学修飾した分子 イ:アの分子を用いて作製したアントラセン単層結晶のSTM像 ウ:STM像の解析などから得られた表面構造 (出所:慶大Webサイト)