東京大学(東大)は4月14日、室温で磁化を持たない多磁区状態にあるコバルト(Co)と白金(Pt)を接合させた試料において、試料に直接電流を流すだけで磁化を生じさせることに成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科 小山知弘助教、千葉大地准教授らの研究グループによるもので、4月11日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
磁界ではなく電流を用いた磁化反転手法は、消費電力の小さい磁気メモリの書き込み手法としての応用が期待されているが、電流を流すことによる試料の発熱に伴い情報を担う磁化そのものが不安定化し、場合によっては多磁区化して保持されている情報が失われてしまう恐れがあるという課題がある。
近年、薄膜磁石/重金属の接合で生じるスピン軌道トルクを用いた場合、多磁区化を抑制できることがわかってきた。今回、同研究グループはこの特性を利用して、もともと多磁区状態が安定であるような磁石に電流を流すだけで単一磁区を作り出すことができるのではないかと考えた。
そこで、Coの膜厚を原子層レベルでコントロールすることにより、室温において正味の磁化を持たない多磁区状態で安定するCo/Pt構造を作製。スピン軌道トルクは、磁化を電流方向に傾けたときに有効に作用することが知られているため、今回の研究では、電流と平行方向に微弱な磁界を印加しておくことで磁化を傾けた。
これにより、電流がない状態では異常ホール抵抗がゼロの正味の磁化を持たない多磁区状態だが、試料に流す電流が大きくなるにつれて異常ホール抵抗が徐々に大きくなる様子が観測された。これは、電流により試料が磁化されていることを示している。また、電流がある一定値より大きいと異常ホール抵抗が一定になった。これは試料が完全に磁化された状態になっていることを意味している。
磁石を磁化させるためには、外部から磁界を加えるのが一般的な方法であるため、同研究グループは今回の成果について、電磁石などの広く一般的に用いられている磁気デバイスの動作原理を一新する可能性を秘めたものであると説明している。