2016年の後半以降、NAND型フラッシュメモリやDRAMは需給がひっ迫して、価格の高騰が続いているが、4月5日、市場動向調査企業である台湾TrendForceは、NOR型フラッシュメモリも需給がひっ迫して、2017年を通して各四半期ごとに最低でも平均で5%ずつ価格が上昇していく可能性があるとの予測を発表した。
NORの価格上昇の原因について同社は、有機ELディスプレイを搭載したスマートフォン(スマホ)が続々と発売されるからだと指摘しているほか、従来は別々だったタッチパネルコントロールICとディスプレイ・ドライバICを1チップに集積したIC(Touch with Display Driver Integration:TDDI)の生産数が増えてきたこともNORの需要を増す要因になっているとも指摘している。
なぜ、これらの動きがNORの需要の増加につながるのか。まずは、サプライヤの状況を整理してみると、長きにわたったNANDとの容量競争で負けたNORは、その容量以外の特徴から、クリティカル分野などで生き残りがなされたが、市場の縮小を受け、サプライヤの数は減少し、その生産量も減らされた。そのため、ここに来ての需要の増加に対応できず、供給不足が生じることとなり、結果として、2017年末に向けて継続的にNORは価格の上昇が続くものと同社では予測している。
ちなみに主要サプライヤであるCypress Semiconductor(旧Spansion)とMicron Technologyが64/128Mビット品のハイエンド向けを提供している以外、台湾WinbondならびにMacronixが16/32/64Mビットのミドルレンジ、中国GigaDeviceが512K/1M/2Mビットのローエンドを提供するといった住み分けがなされており、シェアもCypressが25%、Macronixが24%、Micronが18%、Winbondが17%と、上位4社だけで8割以上のシェアを占める状態で、他社が参入する余地は少ない。GigaDeviceが、過去、中国政府からの補助金で安売りを仕掛けた経緯があるが、中国の半導体メーカーは現在、補助金の交付は期待できない状況にあり、GigaDeviceもNORの生産キャパシティを縮小させている。また、ハイエンド向けを展開するCypressは、合併を機に、車載向けマイコンや産業機器向けICの供給に注力し、NORの比率を下げているほか、Micronに至っては、200mmウェハファブの1つを売却する予定とのことで、NORの生産量に影響を与えることが危惧されている。
スマホ向け有機ELの需要増加が、なぜNORの需要を高めるのか?
こうした市場の縮小が続いてきたNORが、ここに至って需要が急増しているのは、上述のスマホへの有機ELディスプレイの採用数の増加にある。有機ELを採用したスマホ向けパネルの出荷数は、2016年に3億枚を超え、2017年は次世代iPhoneに搭載されるなどの憶測もあり、5億枚を超す可能性があるという。
では、有機ELが増産されるとなぜNORの需要が増加するのか。その理由はこうだ。有機ELのパネル製造は複雑なために、しばしば同じラインで作られた製品であっても、それぞれのパネルの異なる位置に輝度ムラ欠陥(いまや英語でも"Mura" Defectと言われている)が発生する。そのため、品質の均質性を確保するためには、ムラ欠陥の検査を実施し、欠陥を修復する必要があるが、現状、ムラ欠陥を除去する機能を有機ELドライバICに集積する経済的な方法が見いだせていないため、各パネルのそれぞれの欠陥を補償するためのコードを別個のNORのチップ上に格納することで、欠陥修復を行っているというのた。要するに、NORが有機ELパネルの製造における欠陥修復という重要な地位を占めるようになっており、スマホへの有機EL搭載需要が増加することで、必然的にNORの需要も増加することになるわけである。
また、もう1つ、TDDIの需要増に伴うNORの需要増という動きもある。TDDIは複数の機能を1チップに集約したものだが、結果的にコントロールするためのファームウェアが肥大化。そのコードを格納するためには、NORの容量が必要になってきたという。実際にTDDI搭載製品は2016年後半より、市場に徐々に出始めてきており、TrendForceでは、2017年にTDDIを採用した液晶パネルベースのIn-Cellタッチパネルの出荷が急激に増加。その結果、スマホにおけるTDDI普及率は2016年の5%から、一気に倍増となる10%まで拡大すると予測しており、今後、さらにTDDIへのニーズが高まれば、併せてNORへの需要も高まっていくことになると説明している。