米国立標準技術研究所(NIST)などの研究チームは、グラフェンを利用して、液体や気体の試料を電子顕微鏡で簡便に観察する技術を開発した。流体状の試料を電子顕微鏡観察に必要な真空条件下に置けるようにするため、グラフェンを使って試料に「ふた」をかぶせるようにした。電池や触媒などの研究開発への応用が期待される。研究論文は、ナノテク専門誌「Nano Letters」に掲載された。

グラフェンで「ふた」をした状態の液体試料を光電子顕微鏡で観察できるようにした(出所:NIST)

試料の表面を観察するのに適した方法として、光電子顕微鏡法(PEEM:photoemission electron microscopy)がある。PEEMでは、紫外線またはX線を試料に当てたとき、試料の最表面または表面直下の極めて浅い層から放出される電子を捉えることで表面像の撮像ができる。

PEEMは、触媒表面での化学反応や、メモリデバイスの磁場構造、生体化合物の分子構造などを精密に調べるときに有効であるが、試料を高真空下に置く必要があるため、通常は固体試料しか観察することができない。大気圧条件下での液体や気体の試料、あるいは液体に浸かった状態の試料の観察には使えなかった。

高真空が必要な電子光学系との圧力差を保ちながら、試料室の真空度を下げる方法としては、「差動排気」と呼ばれる方法があるが、電子工学系と試料室に対して排気系を別々に用意する必要があるため装置コストがかさむ。また差動排気系を使っても、液体や気体の試料を本来の大気圧条件と完全に同じ状態に置くことは難しい。

そこで今回の研究では、差動排気系を使わずに試料を大気圧条件に置いた状態で電子顕微鏡観察する技術の開発を目指した。具体的には、単層または二層程度のグラフェンで試料に「ふた」をかぶせる方法を考えた。

グラフェンで封止された試料は、グラフェンで覆われた内部空間を大気圧条件に保ったまま高真空下に置くことができる。一方、試料に当てる光や、試料表面から出てくる電子は、グラフェンを透過できるので、通常のPEEMと同じように撮像することができる。この方法を液体試料に実際に適用したところ、通常は真空にさらされると蒸発してしまう液体を数時間にわたって高真空下に置くことができ、PEEMによる撮像や実験が十分可能であることが確認できたという。

電池などのデバイスの研究では、実際のデバイス動作環境と同じ条件で、電解液に浸った状態での電池材料の詳細な観察を行いたいという要求がある。今回の技術はこうしたニーズに幅広く低コストで対応できる可能性がある。