アクセンチュアは4月6日、アジア太平洋(APAC)地域における2016年のFinTech投資額は前年比2倍以上の112億ドルに成長し、日本でも同2倍以上に増加しており、同地域がFinTech投資に対する世界市場を牽引しているとの調査結果を発表した。
同調査は、ベンチャー企業の財務データ収集・分析業務を国際的に行う調査会社のCB Insightsが提供するFinTechの投資データに基づき、アクセンチュアが分析を加えたもの。調査対象には、ベンチャー・キャピタルおよび未上場企業、株式会社および企業のベンチャー・キャピタル部門、ヘッジファンド、アクセラレータ、政府系ファンドなどにおける国際的な投資活動を含む。対象となるデータは2010年から2016年まで。
調査では、FinTech企業を銀行業務やコーポレート・ファイナンス、キャピタル・マーケット、財務データ分析、決済や個人向けの財務管理などに関して多様なテクノロジーを提供する企業と定義している。
同調査によると、世界における2016年1~12月のFinTechベンチャー企業への投資額は、中国で超大型案件が相次いだことを主因として、2016年に対して10%増の232億ドルに達したという。
2016年のFinTech投資額は、APAC地域が2015年の52億ドルから112億ドルへと2倍以上の増加となり、北米における投資額を初めて上回った。なお、北米における投資額は92億ドル、欧州は24億ドルだった。
投資案件数に関してはすべての主要地域で急増し、2015年の約1200件から約1800件へと拡大。ただし、投資金額面での増加は主に中国と香港における案件によるものであり、3%の案件が投資総額の43%近くを占めているという。
また、いくつかの超大型案件の貢献により中国と香港のみで102億ドルに達しており、これはAPAC地域の投資総額である112億ドルの91%を占めている。同地域における2016年の上位10件の投資案件はすべてが中国と香港で、その投資額は同地域の投資総額の82%に達している。
最大の投資案件は、中国のオンライン決済プラットフォーム「Alipay」を運営するAlibaba Group Holding傘下の、金融サービス企業のAnt Financial Services Groupが、2016年4月に実施した45億ドルの資金調達だった。
また、Lu.comとしての事業展開を進めているPing An傘下のLufaxが、2016年1月に実施した12億ドルの資金調達、さらに同月、中国第2位のEコマース企業のJD.comが、消費者金融子会社であるJD Financeのために新たに10億ドルを調達したことも、FinTech投資総額を押し上げる要因になったという。
日本における2016年のFinTech投資額は1億5400万ドルとなり、6500万ドルだった2015年から倍増している。注目すべき投資領域としては、ビットコインなどを含む決済関連が6200万ドル規模であり、最も多くの投資が行われている領域となっている。また、グローバルでの動向と同様にロボ・アドバイザーといったウェルス&アセット・マネジメント関連への投資も散見された。
同社の執行役員 金融サービス本部統括本部長の中野将志氏は「シリコンバレー、ニューヨーク、ロンドンのような成熟したFinTech市場にとって2016年は、『不確実性の年』であったと言えるでしょう。投資ブームへの懸念、バリュエーションの上昇、大手FinTech企業のビジネスモデルに疑問符がつくなど、従来のFinTech・ハブにおける大型投資が減少しました。政治動向も、FinTechベンチャー企業の市場参入や事業機会に対する懸念を呼び起こし、金利や為替動向についての懸念も続きました」とコメントしている。
さらに、同氏は「その一方で、グローバル全体で考えるとFinTech市場は毎年200億ドル超もの資金が定常的に流入する市場にまで成長したともとらえられます。このことは、従来は規制業種の色合いが濃くイノベーションの期待が低かった金融ビジネスが、常に進化し続けるビジネスとして認知されたととらえることができるでしょう。本邦金融機関においても、外部と連携して新たなものを生むための専門組織の設立や異業種とのデータ連携を通じた経済圏の構築など、金融機関がこれまでの枠を超え、新たなポジションを獲得しようとする強い意志を感じています」と述べている。