情報通信研究機構(NICT)は4日、未来ICT研究所において、深紫外光ICTデバイス先端開発センター 井上振一郎センター長らの研究グループが、光出力150mW超(発光波長265nm)という世界最高出力クラスの深紫外LED(発光ダイオード)の開発に成功したことを発表した。この成果は、米国応用物理学会誌「Applied Physics Letters」(電子版)に日本時間4月4日に掲載された。
深紫外波長帯(200~300nm)で発光する半導体発光ダイオード(LED)はその極めて強い殺菌作用により、ウィルスの殺菌、飲料水・空気の浄化をはじめ、食品の安全・衛生分野や、院内感染の予防、光線外科治療といった医療分野などでその活用が期待されている。同時に、最も発光波長の短いLEDであることから、3Dプリンタやスキャナの高精細化、樹脂の硬化、印刷、環境汚染物質の分解、物質の光同定分析、ICT応用といった幅広い分野での利用が期待されている。しかし、従来の深紫外LEDの光出力では実用面で普及するにはその光出力が不十分であった。
今回、同研究グループは、新たに開発した窒化アルミニウム(AlN)基板上深紫外LEDに対するナノインプリント技術を用いて、LEDチップ全面に光取出し特性と放熱特性を同時に向上させる独自のナノ光・ナノフィン構造を形成することで、従来構造と比べ光出力を大幅に増大させることに成功し、発光波長265nm、シングルチップ・室温・連続駆動において世界最高出力となる150mW超を達成した。
また、従来のフラットな素子構造では、注入電流が増加するとともに、外部量子効率と光出力が大きく低下する現象が見られたが、このたび開発されたナノ光・ナノフィン構造を形成した深紫外LEDでは、注入電流を増加(最大850mAまで)させても外部量子効率の低下は極めて少なく、光出力も増大を続けるという。この結果、従来構造に対し、最大注入電流時において約20倍という大幅な光出力の向上を達成した。また、スペクトル解析の結果、高注入電流時でのLEDのジャンクション温度の上昇が従来構造に対し抑制されていることを明らかにした。
この結果は、殺菌性の最も高い265nm帯LEDにおいて実用域の100mWを超える初めての報告であり、深紫外LEDの今後の社会普及を一段と加速させる技術として期待されるとしている。