ハイテク産業市場動向調査企業の米The Information Networkは3月30日(米国時間)、「Seeking Alpha」に「The Switch To ASML's EUV Lithography Will Impact The Entire Semiconductor Supply Chain」という記事を掲載。EUVを中心としたリソグラフィ装置に関する調査結果を公表した。
これによると、先端プロセスを活用する主要半導体メーカーのうちの少なくとも4社(Intel、Samsung Electronics、TSMC、GLOBALFOUNDRIES)が今後2~3年以内にオランダASMLのEUVリソグラフィ装置を先端製品の生産に導入することを検討中であるとしており、もし、これが本当に実現すると、現行のArF液浸露光装置では必須となっている多重パターニングや、関連する堆積/エッチングの繰り返しプロセスが不要となり、Appied Materials やLam Researchなどの主要装置メーカーの現行ビジネスに悪影響を与える可能性があるほか、半導体材料やマスクを含む半導体サプライチェーン全体にも影響が及ぶ可能性がでてくることとなる。
躍進するASML、衰退する日本勢
同社が調べた過去20年余りの半導体露光装置各社のマーケットシェア(台数ベース)を見ると、2016年にASMLは、139台のリソグラフィ装置(新品)を販売し、ニコンやキヤノンに大きく差をつける結果となっている。そのシェアは実に58%であり、またASMLの製品ラインアップは先端プロセス向けが主体であるため、金額ベースにすると、市場シェアは8割を超えることとなる。ASMLに敗北したニコンは露光装置ビジネスの縮小を決めているため、今後、ASML一強状態がさらに進むことになるのは確実である。
先進プロセスを活用する4社の半導体企業がEUVへの移行を検討
また、ASMLは次世代リソグラフィといわれるEUVリソグラフィ装置を販売している世界唯一のメーカーである。EUVは2016年に4台出荷され、その平均販売価格は1億1000万ドル前後と言われている。
そうしたEUVリソグラフィを活用したいと思っているポテンシャルカスタマとしては、現状、Samsungがもっとも導入に意欲を見せているようだという。Samsungは2018年にシステムLSI事業部が手がける7nmプロセスのファウンドリーサービスに導入しようとしている。また、ファウンドリ最大手のTSMCは2017年、従来の露光技術(ArF液浸)リソグラフィを用いて7nmプロセスの立ち上げるとしているが、2017年第2四半期にはEUVリソグラフィを用いた製造テストを開始し、2019年の5nmプロセス導入時よりEUVの本格導入を開始する見通しだという。さらに、Intelは2020年にEUVを使って7nmに移行すると予想されているほか、GLOBALFOUNDRIESも、2020年に7nmプロセスの中でクリティカルな数層にEUVを適用する見通しとしている。ちなみに、7nmプロセスであっても、配線層のすべてが7nmプロセスではなく、上層になれば既存の光学リソグラフィでも露光が可能であるため、EUVが必要となるのは下層の6~10層とみられる。
1つの先端プロセス工場で売上高10億ドルが見込めるASML
なお、「月産4万5000枚(300mmウェハ)の先端ロジックファブにて、7nmプロセス製品を量産する場合、クリティカルレイヤとなる6~10層にEUVを適用すると仮定した場合、7~12台のEUV装置が必要になる」とASMLは試算している。仮にEUV装置1台当たりの価格が1億1000万ドルとすると、ASMLにとってはファブが増設されるごとに10億ドルの売り上げが立つことになる。
一方の日本勢はというと、ニコンはかつて、水面下で色々と開発を行ってはいたものの、EUVへの本格進出をしなかった。技術的な難易度の高さもあるが、ArF液浸の装置価格は1台当たり3500万~4000万ドルとEUVの1/3程度で済むほか、1台あたりのスループットも倍以上早いためであった。しかし、ArF液浸でもASMLに大きく差をつけられる結果となり、露光装置ビジネスの縮小をしなければならない状況となっている。また、キヤノンは、早々に先端プロセス向けArF液浸やEUVをあきらめ、線幅の太いi線とKrF露光装置を販売してきたが、先端プロセス向け露光装置ビジネスそのものは諦めておらず、2014年にナノインプリント・リソグラフィを手がける米Molecular Imprintsを買収、東芝のNAND量産ラインに次世代装置を導入するなど、独自の路線を貫こうとしている。