京都大学iPS細胞研究所(京大CiRA)は4月4日、ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞および血管構成細胞を用いて、メッシュ状の人工心臓組織を作製することに成功したと発表した。
同成果は、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門・心臓血管外科 中根武一郎研究員、京都大学心臓血管外科 升本英利助教、京都大学CiRA増殖分化機構研究部門 山下潤教授、ルイビル大学のBradley B. Keller教授らの研究グループによるもので、4月3日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
薬剤による治療が困難な重症心不全の患者に対し、心補助装置の植込みや心臓移植などが行われているが、新たな治療法としてヒトiPS細胞から分化誘導した心臓の細胞を移植する方法が研究されている。
同研究グループはヒトiPS細胞から効率的に心筋細胞や血管を構成する細胞を同時に分化誘導する方法を開発しており、ここに組織工学の技術を応用することで、ヒトiPS細胞由来の人工心臓組織の開発に取り組んでいる。これまでに、細いひも状の小さな組織を作製して最適な細胞の組成を検討し、心筋細胞と血管系細胞が混在したほうが構造的にも機能的にも成熟した組織となることを報告している。
今回の研究では、ヒトiPS細胞から心筋細胞と血管構成細胞を誘導し、細胞外マトリックス製剤とともにシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)で作製した組織培養皿に注入することで、より大きな人工組織の開発を目指した。
この細胞とマトリックスの混合ゲルは、培養皿に配置した仕切りの影響で内部に穴が開いて、14日間の培養でメッシュ状の形態になる。組織は培養皿内で自己拍動し、培養皿から回収した後もその形態を維持する。培養皿の仕切りの配置を変えて平面状、縦じまの形態の組織も作製したというが、メッシュ状は14日間培養後の細胞の生存率が96.6%と最も高く、心筋細胞が組織の線維方向に配列し、平面状の組織より高い収縮力が認められた。組織のサイズは調整可能で、今回作製した3cm大のメッシュ状組織は、ヒトの心臓の治療に対して一般的に必要とされているサイズとなる。
さらに同研究グループは、このヒトiPS細胞由来メッシュ状心臓組織1枚を半分に折り畳み、ラット心筋梗塞モデルに移植。移植後1カ月の心臓超音波検査において、心筋梗塞で一旦低下した心収縮力の回復を確認した。また、組織学的検査においては、移植された心筋細胞が生着し心筋梗塞領域の心臓壁を再生しているのに加え、心筋梗塞後の線維化が抑制されていることがわかった。
今後は、ヒトに近い大型の動物での検証を進めていく予定だという。また使用している生体材料は現時点で臨床応用が許可されたものではないため、安全性の確認やすでに臨床使用されている代替材料への変更も考慮していく必要があるとしている。