米国防総省・国防高等研究計画局(DARPA)は、革新的な分子コンピュータの開発計画を推進すると発表した。二進法で論理演算を行う現行のノイマン型コンピュータに替わり、分子の多様な構造特性を利用してデータの保存・検索・演算を行う新しいコンピュータ・アーキテクチャの実現を目指すという。
DARPA防衛科学研究室(DSO: Defense Sciences Office)プログラムマネージャーのAnne Fischer氏は「化学によってもたらされる多様な性質を、高速で大規模な情報記録・演算処理に利用できる可能性がある」と話す。「三次元構造が原子レベルで異なる数百万の分子が存在しており、それらはさまざまな形、大きさ、色をもっている。従来の0/1ベースのデジタルアーキテクチャとは異なる豊かな多様性は、データのエンコードと演算を多値的に行う新しい方法を探究するための広大な設計空間を提供してくれる」(同氏)
DNA配列を利用した分子ストレージの概念は、近年、研究が盛んに進められており、極微小な物理空間内にデータを保存する有望な方法であるとみなされるようになってきた。ただし、DNAストレージには、高速な情報検索ができないという問題があるとされる。DNA型にエンコードされた情報を処理する場合にも、いったん電子的なデジタルデータに戻してから従来の情報システムを用いる必要がある。
今回の計画における最重要の技術課題は、高密度情報記録の概念と、二進法ベースの論理演算によらない新しい分子型情報処理を統合することであるという。多種多様な分子を用いることによって、ATCGという4種類の塩基で表現されるDNA配列よりも、さらに広大な空間を計算処理に利用できるようにすることを目指すとする。
この目標を実現するため、同計画では、化学、コンピュータ・情報科学、数学、電気化学工学など幅広い分野の研究者の協調が必要になるとしている。多分野を束ねた研究チームの編成によって、「どうのようにしてデータを分子の形にエンコードするのか?」「分子を用いて実行できるデータ処理にはどのようなものがあるか?」「分子における"計算"とは何を意味するのか?」といった本質的な問いに答えを出していくという。
なお、DARPAでは、このテーマに関する情報をウェブで提供する「Proposers Day for Molecular Informatics」を4月7日に開催する予定。