国立循環器病研究センターは、先天性QT延長症候群患者の妊娠・出産時の不整脈リスク抑制にβ遮断剤が有効であることが判明したと発表した。
同研究は、QT延長症候群(LQTS)の女性患者の妊娠・出産における致死的不整脈の発生頻度と、LQTSの代表的な治療薬であるβ遮断薬の有効性および胎児への安全性について検証を行ったもの。同研究は、国立循環器病研究センター不整脈科の石橋耕平医師、相庭武司医長、草野研吾部長、周産期・婦人科の神谷千津子医師、吉松淳部長、小児循環器科の宮崎文医師、坂口平馬医師、白石公教育推進部長ほか全国の医療機関による多施設合同研究チームによるもので、英国の専門誌「Heart」オンライン版に3月14日に掲載された。
心電図のQT時間(おおよそ心臓が収縮してから元に戻るまでの時間)が遺伝子異常により長くなるLQTSは遺伝性不整脈疾患の一つで、重症例では失神や突然死の恐れがある疾患となっている。LQTS患者は約1,000人に1人の割合で認められ、運動やストレスが誘因となり、特に思春期以後の若い女性に発作が多く妊娠・出産も誘因の一つと言われている。LQTSの治療にはβ遮断剤が広く用いられ、出産時の事故抑制の観点からは妊娠期間中も継続的な服薬が望まれるが、妊娠中の薬物治療による胎児への懸念から服薬を中断するケースもあり、積極的な薬物療法の是非を検証する必要があったことが研究の背景となった。
同研究チームは、全国における2000年~2016年のLQTS患者の妊娠136件(患者数79名)を解析し、β遮断剤使用例(49件)と未使用例(94件)における妊娠中の心電図変化、妊娠・出産後の不整脈発生の頻度、およびβ遮断薬の胎児への影響について後ろ向き調査・解析を実施した。LQTS妊産婦の致死性不整脈の発生はLQT2型(急激な緊張を誘因として致死性不整脈が起こりやすい傾向にある)に多く、β遮断剤投与(BB群)で出産した38例では、致死性不整脈は妊娠中に出現せず、産後9ヶ月でも2例(5%)のみであった。一方、投与していない88例(非BB群)では、致死性不整脈は妊娠中と産後に計12件(14%)起こっており、妊娠中ならびに産後のβ遮断剤投与が母体保護に有効であることがわかった。一方、β遮断薬使用例では帝王切開を選択する場合が多く、妊娠週数が1~2週短いため低体重の胎児が多かったが、その後の発育に問題はなく、また流産や胎児の先天的な異常の頻度もβ遮断薬を使用しない場合と比べ差がなかったということだ。
LQTSは決してまれな疾患ではなく、致死性不整脈による心事故を防ぐためには早期診断を行う必要があり、さらにハイリスク患者に対しては妊娠中でもβ遮断剤の継続が推奨される。同研究の後ろ向き調査で、妊娠時に既にLQTSと診断されβ遮断剤を服用していた患者とそうでない患者で重症度など臨床背景が大きく異なることも考慮し、今後さらに症例を増やして検証を続ける必要があるということだ。