日本学術会議(大西隆〈おおにし たかし〉会長)が会長や副会長ら執行部をメンバーとする幹事会を24日開催して「軍事的安全保障研究に関する声明」を決定し、ホームページで一般に公開した。声明は「日本学術会議安全保障と学術に関する検討委員会」(杉田敦〈すぎた あつし〉委員長)がまとめた声明案を幹事会で一部文言を修正して決定した。日本学術会議は過去1950年と67年に軍事研究に関する声明を出しており、新声明は「軍事的な手段による国家の安全保障に関わる研究が学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認し2つの声明を継承する」とした。
新声明は当初声明案を4月の総会に諮って正式決定される予定だったが異論が出て幹事会での決定となった。総会では会員に新声明の内容や決定の経緯などについて報告される予定。新声明の議論は防衛省が2015年度から研究公募を開始、大学の研究者らが応募するケースが出たことなどを受け16年から議論を続けてきた。この間激しい議論が展開され「自衛目的にかなう研究なら問題ない」との意見も出された。新声明に応募の可否についての明確な表現はなく、研究者の応募に一定の歯止めがかかることを目指す文言に落ち着いた。
声明は以下の通り(全文)
軍事的安全保障研究に関する声明
日本学術会議が1949年に創設され、1950年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明を、また1967年には同じ文言を含む「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発した背景には、科学者コミュニティの戦争協力への反省と、再び同様の事態が生じることへの懸念があった。近年、再び学術と軍事が接近しつつある中、われわれは、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究、すなわち、軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることをここに確認し、上記2つの声明を継承する。
科学者コミュニティが追求すべきは、何よりも学術の健全な発展であり、それを通じて社会からの負託に応えることである。学術研究がとりわけ政治権力によって制約されたり動員されたりすることがあるという歴史的な経験をふまえて、研究の自主性・自律性、そして特に研究成果の公開性が担保されなければならない。しかるに、軍事的安全保障研究では、研究の期間内及び期間後に、研究の方向性や秘密性の保持をめぐって、政府による研究者の活動への介入が強まる懸念がある。
防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」(2015年度発足)では、将来の装備開発につなげるという明確な目的に沿って公募・審査が行われ、外部の専門家でなく同庁内部の職員が研究中の進捗管理を行うなど、政府による研究への介入が著しく、問題が多い。学術の健全な発展という見地から、むしろ必要なのは、科学者の研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が尊重される民生分野の研究資金の一層の充実である。
研究成果は、時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され、攻撃的な目的のためにも使用されうるため、まずは研究の入り口で研究資金の出所等に関する慎重な判断が求められる。大学等の各研究機関は、施設・情報・知的財産等の管理責任を有し、国内外に開かれた自由な研究・教育環境を維持する責任を負うことから、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである。学協会等において、それぞれの学術分野の性格に応じて、ガイドライン等を設定することも求められる。
研究の適切性をめぐっては、学術的な蓄積にもとづいて、科学者コミュニティにおいて一定の共通認識が形成される必要があり、個々の科学者はもとより、各研究機関、各分野の学協会、そして科学者コミュニティが社会と共に真摯な議論を続けて行かなければならない。科学者を代表する機関としての日本学術会議は、そうした議論に資する視点と知見を提供すべく、今後も率先して検討を進めて行く。
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