九州大学(九大)は3月27日、熱により巨大なスピン流の生成が可能である物質 CoFeAlとほかの強磁性金属を組み合わせてスピンデバイスを作製し、これまで困難であった強磁性金属の熱スピン注入特性を高精度に評価する手法の開発に成功したと発表した。

同成果は、九州大学大学院理学研究院量子ナノスピン物性研究センター 木村崇主幹教授、同大学理学府の博士課程 野村竜也氏、西安交通大学らの研究グループによるもので、3月20日付けの米国科学誌「Physical Review B」に掲載された。

エレクトロニクスデバイスのさらなる高性能化・高機能化の観点から、スピン角運動量の流れであるスピン流を用いたデバイスが注目されている。同研究グループでは特に、スピン流をさらに発展させた電流を伴わないスピン流「純スピン流」に着目しているという。

近年の研究では、熱の流れから純スピン流を作り出せることが判明しているが、熱から生成される純スピン流は非常に小さいため、定量的な解析が困難であるとともに、エネルギー効率が悪いため、応用として利用することは困難であると考えられていた。しかし、同研究グループはこれまでの研究で、特殊な強磁性金属合金CoFeAlを用いることで、熱でも非常に大きな純スピン流を効率的に作り出せることを実証していた。

今回の研究では、CoFeAlを用いて、ほかの強磁性金属の熱スピン流注入特性を高精度で評価できる手法を開発。CoFeAlと、熱スピン注入効率が小さい強磁性金属NiFeを近接して配置して、銅で接続したスピンバルブ素子と呼ばれる構造を作製し、入力端子と出力端子を入れ替えた2種類の端子配置で熱スピン注入特性を評価したところ、CoFeAlを入力端子にした場合は、0.17μVのスピン流による大きな電圧変化が観測されたにも関わらず、NiFeを入力にした場合は、熱流による電圧変化が支配的となり、スピン流による電圧変化は20nVと非常に小さくなった。

作製した横型スピンバルブの電子顕微鏡写真と入力端子と出力端子を入れ替えた2種類の測定端子配置の模式図 (出所:九大Webサイト)

2種類の端子配置で測定した際の出力電圧の磁場依存性。CoFeAlを入力端子にした場合は、170nVの明瞭なスピン信号が検出されているが、NiFeを入力にした場合は、熱流起因の信号が支配的になっている (出所:九大Webサイト)

さらに同研究グループは、この2つの端子配置の信号強度の比から、素子構造や銅の特性などに起因する物理定数などを用いることなく、NiFeの熱スピン注入特性を導出できることを見出した。同手法では、素子特性のバラつきが排除され、信号強度も増大しているため、従来の手法よりも高い精度で各物質の熱スピン注入特性を求めることができるという。

今回の成果について、同研究グループは、現在使用されず捨てられている電子回路上の排熱などを効率的に利用し動作させる新しい省エネデバイスへの応用に期待されると説明している。