横浜市立大学は3月22日、マウス肝臓の胎内発生初期段階において、分岐鎖アミノ酸であるバリンの代謝がその成長に重要であることを特定したと発表した。

同成果は、横浜市立大学学術院医学群臓器再生医学 武部貴則准教授、小池博之研究員、谷口英樹教授らの研究グループによるもので、3月14日付の英国科学誌「Development」に掲載された。

近年、iPS細胞などの多能性幹細胞を分化誘導することにより、創薬スクリーニングや再生医療に有益なヒト細胞や組織を創出する方法が注目されている。同研究グループはこれまでに、器官の原基が胎内で形成される過程を模倣する新規の細胞培養操作技術を開発し、試験管内においてヒトiPS細胞から立体的な肝臓の原基を自律的に誘導できることを示していた。

一般に、多能性幹細胞の培養系では、サイトカインを始めとしたさまざまなタンパク質製剤などの試薬を大量添加することによる各種機能細胞への分化誘導が試みられているが、これらの試薬が極めて高額であるために、医療応用に必要な数の細胞を得るためには巨額の製造コストを要するという課題がある。

同研究グループでは今回、胎内での肝臓発生において成長が活発な時期に特徴的な細胞の代謝特性に着目。まず、胎生初期から成体に至るまでの肝臓を対象に、メタボローム解析・トランスクリプトーム解析を実施した。この結果、未分化な細胞が高頻度に存在する胎生初期(E9.5~11.5)の肝臓で特異的に、分岐鎖アミノ酸の分解酵素であるアミノ基転移酵素が高発現し、分岐鎖アミノ酸の分解が亢進していることが明らかになった。

そこで、分岐鎖アミノ酸非含有飼料を作製し、肝発生が始まる妊娠8.5日目の母体マウスに投与して影響を調べた結果、同飼料を与えた群の胎児肝臓においては、標準餌群と比較して肝重量が著しく減少した。さらに、胎児肝臓中に含まれる肝前駆細胞の存在頻度を解析したところ、標準餌群に比べて、分岐鎖アミノ酸非含有飼料およびL-バリン非含有飼料を与えた群ではその存在頻度が大きく減少していた。

これらの結果は、発生初期の肝形成過程で肝臓の前駆細胞が活発に増殖する時期においては、分岐鎖アミノ酸、特にバリンの存在が重要であることを示しているといえる。この知見をヒトiPS細胞の培養に応用し、最適な濃度のバリンを培養液に添加するとヒトiPS由来肝臓細胞の増殖性が亢進すること、また継代培養したヒト肝臓細胞を用いてミニ肝臓形成が可能であることも明らかになっている。

同研究グループは、今回の研究成果について、分岐鎖アミノ酸濃度を最適化した培養液を用いることで、iPS細胞などに由来する肝臓細胞の安価かつ効率的な創出が可能になると考えられると説明している。

発生初期の胎児肝臓形成へ与える分岐鎖アミノ酸の効果。写真は、胎仔(13日目)の全体および肝臓。標準飼料あるいは分岐鎖アミノ酸非含有飼料を胎生8日目より母体マウスへ与えたところ、分岐鎖アミノ酸非含有飼料群では標準資料群に比べて有意に肝臓が縮小することが確認された (出所:横浜市立大Webサイト)