イーロン・マスク氏と、彼が率いる宇宙企業スペースXにとって、2016年は波瀾万丈の1年だった。
年の前半こそ、打ち上げに連続して成功し、さらにかねてより挑んでいたロケットの回収にも何度も成功。火星への移住計画を大々的に発表して世間を賑わせた一方で、9月には「ファルコン9」ロケットの爆発事故を起こし、原因究明と対策のため打ち上げは滞った。
年が明けて2017年1月14日、スペースXは約4カ月ぶりにファルコン9の打ち上げを再開。2月と3月にも続けて打ち上げに成功し、昨年の事故で落ちた信頼の回復と、溜まっている打ち上げ予約の消化が始まりつつある。
しかし同社にとって2017年は、単に昨年やり残した宿題を片付けるだけでなく、いくつもの新たな挑戦が-それも、ロケットの低コスト化や月への有人飛行、そして火星への移住など、これまでスペースXが披露してきた数々の未来予想図が、実現するかそれとも夢で終わるかのカギを握る、重要な挑戦が-待ち構えている年でもある。
「ファルコン9」ロケットの再使用打ち上げ
これまで、マイナビニュースでもたびたび報じてきたように、スペースXはロケットの打ち上げコストを劇的に引き下げることを目指し、機体を旅客機のように何度も再使用できる「再使用ロケット」の開発に挑んでいる。
スペースXはまず、2012年から垂直離着陸できるロケットの実験機を造って試験を繰り返し、2013年からは実際に衛星を打ち上げたファルコン9の第1段機体を、海上に着水させる試験も行った。2015年からは大きな甲板をもつ無人船が造られ、その上にファルコン9を着地させる試験が始まった。また同時に、ロケットを打ち上げる発射台の近くに着陸場を整備し、ロケットの性能や目的に合わせて、海と陸のどちらかで回収できるような体制を整えた。
そして2015年12月21日に初の陸上への着陸に成功し、2016年4月には船への着地にも成功。現在までに合計8機のロケットの回収に成功している。そしてこれまでは、打ち上げたロケットの回収のみが行われてきたが、いよいよ回収したロケットの再使用打ち上げが始まる。
スペースXは回収した8機のうち、1機は同社の敷地内に展示しており、また少なくとももう1機は、再使用しないことを前提に、地上での徹底した試験にかけられていることがわかっている。
そして今年1月末には、2016年4月に初の船への着地に成功した機体の燃焼試験にも成功。再使用打ち上げに向けた準備が着々と整いつつある。
3月21日現在、最初の再使用打ち上げは日本時間3月30日の5時59分~8時29分の間に予定されている。使われるのは、前述した1月に燃焼試験に成功した機体で、また初の再使用打ち上げながら、ルクセンブルクにある衛星通信会社SESの通信衛星「SES-10」が搭載される。
ロケットの再使用には、"中古"であることによる信頼性の低下が懸念されがちだが、SESはかねてより、スペースXによる「ロケットの再使用によるコストダウン」という方針を熱心に支持しており、「再使用打ち上げの1号機の顧客になりたい」と表明していたほどで、それが叶った形である。
また、この再使用打ち上げでは、同社はふたたび機体を回収する予定だと伝えられている。ただ、SES-10の質量は約5300kgと比較的大きく、ファルコン9で回収できるぎりぎりのところであるため、回収は難しいかもしれない。また回収に成功しても、"再々"打ち上げを行うのかどうかは明らかにされていない。
同社では、今年だけでも5機の再使用打ち上げを行う計画だと伝えられている。実際に再使用打ち上げが始まれば、本当にロケットの再使用でコスト削減が達成できるのか、そして信頼性への影響などが出ないのかどうかといった答えがわかることになる。
2016年4月に回収に成功したファルコン9ロケットの第1段機体 (C) SpaceX |
今年1月には、この回収した機体の燃焼試験が行われた。そして3月30日には、この機体が再使用打ち上げに挑む (C) SpaceX |
「ドラゴン」補給船の再使用打ち上げ
再使用されるのはファルコン9だけではない。そのファルコン9で打ち上げられている、「ドラゴン」補給船の再使用も始まろうとしている。
ドラゴンは現在、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を送り、そしてISSで生み出された実験成果などを地球に持ち帰っている。これまでに12機が打ち上げられ、そのうち10機がISSへの補給と地球への帰還に成功している(1機は試験機のためISSへは飛行せず、もう1機は打ち上げ時にロケットの失敗で喪失)。
このドラゴンはファルコン9と同様、もとより再使用を念頭において設計されている。これまではNASAとの契約もあり、すべて新しく製造された機体が使われていたが、かねてより再使用に向けた開発や試験が続けられており、いよいよ今年4月に予定されているドラゴン補給船運用11号機(CRS-11)で再使用が行われる。
今のところスペースXは、このドラゴンの再使用について、ファルコン9ほど多くを語っておらず、たとえばCRS-11で過去のどのミッションで使った機体を再使用するのか、またドラゴンは設計上、何回再使用が可能なのか、といったことは不明である。
また同社では、ドラゴン補給船を基にした有人の「ドラゴン2」宇宙船の開発も進めており(詳しくは後述)、ドラゴン補給船の再使用が始まれば、これまで製造に使っていた人員や設備をドラゴン2の開発や製造に回すことができるため、開発が促進されるとしている。
さらに、このドラゴン2から発展させた、新しいドラゴン補給船の開発も進んでいる。現在のドラゴン補給船はパラシュートで太平洋に着水しているが、ドラゴン2と新型ドラゴン補給船はロケット・エンジンを噴射しながら、陸上に軟着陸できるようになる。
スペースXでは、まずドラゴン2の初期のミッションでは実績のあるパラシュートで着水するようにし、それと並行して無人の新型ドラゴン補給船で何度かロケットによる着陸を試験した後、ドラゴン2も同様の着陸方法に移す、という計画をもっているようである。
この新型ドラゴン補給船は2019年にも登場する予定となっている。
国際宇宙ステーションに接近するドラゴン補給船 (C) SpaceX |
海上に着水後、引き上げられたドラゴン補給船。このあと洗浄や再整備を行い、ふたたび打ち上げることが可能な設計になっている (C) SpaceX |
参考
・Falcon 9 | SpaceX
・SpaceX to reuse Dragon capsules on cargo missions - SpaceNews.com
・SpaceX test fires returned Falcon 9 booster at McGregor | NASASpaceFlight.com
・Falcon 9 User's Guide - SpaceX
・SpaceX Falcon 9 (Reuse of F9-23) - SES-10 - March 29, 2017 - DISCUSSION