セントアンドリューズ大学の研究チームは、天の川銀河のまわりにある約30個の矮小銀河の位置と速度について分析した結果、「過去に天の川銀河とアンドロメダ銀河がニアミスを起こしていた可能性がある」とする見解をまとめた。

この見解には、アインシュタインの重力理論やダークマター理論にもとづく現代の主流の宇宙論では説明のつきにくい内容が含まれており、宇宙論の見直しを促すものであると研究チームは主張している。研究論文は、「英国王立天文学会月報」に掲載された。

天の川とアンドロメダ銀河は70億年ほど前にニアミスしていた可能性がある(出所:セントアンドリューズ大学)

アンドロメダ銀河は、地球から約250万光年の距離に位置する渦巻銀河である。地球の属する天の川銀河から最も近い場所にある大型の銀河であり、いまから40億年後くらいに天の川とアンドロメダ銀河の衝突が起こる可能性があると予想されている。

しかし今回の研究では、天の川とアンドロメダ銀河の接近は遠い未来にはじめて起こる出来事ではなく、2つの銀河が「ニアミス」といっていいほど近い距離まで接近したことが過去にもあったという見方が示されている。

その根拠となるのは、天の川やアンドロメダ銀河が属する宇宙の領域「局部銀河群」の中にある矮小銀河の分布であるという。約30個の矮小銀河の位置および速度を分析すると、それらが天の川のまわりに環状に広がっており、天の川から急速に遠ざかりつつあることがわかる。研究チームによると、矮小銀河のこのような環状の分布は非常に特異なものであり、それが偶然によって生じる確率は640分の1程度と低い。

このため、いまから70億年ほど前に、矮小銀河の環状分布の原因となった何か大きな出来事が起こった可能性が高いと考えられる。その状況はまるで「小規模なビッグバン」が発生したかのようだが、最も有力なシナリオとしては、天の川とアンドロメダ銀河のニアミスが考えられるという。ニアミス時の衝撃によって矮小銀河がパチンコ玉のように弾き飛ばされてできたのが現在の環状分布であると説明できる。

ダークマター理論との矛盾

ただし、この説明には、ダークマターの存在を想定した現在の主流の宇宙論である「ΛCDMモデル」とは相容れない面がある。

ダークマター理論では、天の川とアンドロメダ銀河の周縁部には目に見えない重力源であるダークマターが大量に存在すると考えられている。矮小銀河が天の川から高速で遠ざかる現象をダークマター理論で説明するには、天の川とアンドロメダ銀河に存在する通常の天体の60倍程度の質量のダークマターが必要になる。しかし、このような大量のダークマターを想定すると、天の川とアンドロメダ銀河は接近時にそのまま衝突し、融合してしまう計算になる。ニアミスを起こしたした後、現在のように250万光年の距離まで離れることはできないと考えられる。

そもそも、ダークマターの存在を想定する大前提として、「重力が距離の二乗に反比例する」というニュートン力学の条件がある。ニュートン力学の拡張であるアインシュタインの重力理論でも、距離の逆二乗則は維持されている。この条件の下で宇宙のさまざまな観測データを説明するためには、実際に観測されているよりもはるかに大量の重力源が必要となる。このため、「見えない重力源」としてのダークマターが想定されるようになった。

ただし、恒星間、銀河間やそれ以上といった遠距離の宇宙に作用している重力を直接測定する方法はない。このため、遠距離に働く重力については、逆二乗則が成り立っていないとする仮説もある。たとえば、月と地球の間や、太陽系の惑星間など近距離の宇宙では逆二乗則が成り立つが、遠距離になるにつれて重力は距離に反比例するようになるとする仮説は、修正ニュートン力学(MOND:Modified Newtonian Dynamics)と呼ばれる。

MOND仮説の立場に立つと、遠距離に作用する重力の強さは逆二乗則の場合よりも大きくなるので、ダークマターを想定しなくてもよくなる。今回の研究でも、MOND仮説の条件で計算したほうが、天の川とアンドロメダ銀河のニアミスや、それによって高速で弾き飛ばされた矮小銀河の動きを上手く説明できることが示されている。