東京工業大学(東工大)などは3月21日、ペロブスカイト型酸化物コバルト酸鉛(PbCoO3)の合成に成功し、鉛とコバルトの両方が電荷秩序を持った、他に例のない電荷分布が実現していることを発見したと発表した。

同成果は、神奈川科学技術アカデミー 酒井雄樹常勤研究員、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所 東正樹教授、Runze Yu研究員、北條元助教(現在は九州大学准教授)、同大学院生の 山本孟氏、西久保匠氏、服部雄一郎氏らの研究グループによるもので、3月15日付けの米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

ペロブスカイト型酸化物は、強誘電性、圧電性、超伝導性、巨大磁気抵抗効果、イオン伝導など多彩な機能を持つことが知られている。 3d遷移金属を含むものとしては、チタン酸鉛(Pb2+Ti4+O3)が知られているが、近年、同研究グループは、バナジン酸鉛(PbVO3)がPb2+V4+O3、クロム酸鉛(PbCrO3)と鉄酸鉛(PbFeO3) がPb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3 とPb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3、ニッケル酸鉛(PbNiO3)がPb4+Ni2+O3の電荷分布を持つことを報告し、チタン(Ti)→バナジウム(V)→クロム(Cr)→鉄(Fe)→ニッケル(Ni)と、元素周期表を右に進むにつれて、鉛(Pb)の価数が増加し、遷移金属の価数が減少する傾向がわかりつつあった。FeとNiの間に位置するコバルト(Co)は、両者の中間的な電荷分布が期待される。しかし、PbCoO3 はこれまで合成されていなかった。

今回、同研究グループは、15GPaという超高圧を用いることでPbCoO3の合成に成功。PbCoO3の結晶構造を、大型放射光施設SPring-8のビームラインでの放射光X線粉末回折実験と、大強度陽子加速器施設J-PARCのビームラインでの高分解能中性子回折実験によって詳細に調べたところ、PbCoO3は、Pb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3とPb4+Ni2+O3の中間の、Pb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3(平均価数はPb3.5+Co2.5+O3)という特殊な電荷分布を持つことが明らかになった。これは、四重ペロブスカイトと呼ばれる複雑な結晶構造を持つことを意味している。

今回の結果について同研究グループは、Ti→V→Cr→Fe→Co→Niと元素周期表を右に進むにつれて鉛と3d遷移金属を含むペロブスカイト酸化物の鉛の平均の価数が2価→3価→3.5価→4価と上昇し、反対に3d遷移金属は4価→3価→2.5価→2価と系統的に減少することがより一層明らかになったものと説明している。

PbCoO3の結晶構造 (出所:物質・材料研究機構Webサイト)