東北大学電気通信研究所は、速度に応じて自発的に足並みを変え、犬が散歩するように歩いたり走ったりする四脚ロボットを開発したと発表した。

開発された四脚ロボット Oscillex 3

再現された足並みの変化(歩容遷移現象)。色で示す期間は、各脚が地面に接地している期間(身体を支えている期間)を示す。

同研究は、東北大学電気通信研究所の石黒章夫教授、大脇大助教の研究グループによるもので、3月21日に英国の科学誌Scientific Reports電子版に掲載された。哺乳類の大半を占める四脚動物の多くは、移動速度に応じて、足並み(歩容)をウォーク(左後脚→左前脚→右後脚→右前脚の順で接地)からトロット(対角脚が同期して接地)、ギャロップ(前同士、後同士がほぼ同期して接地)へと、エネルギー的に最も効率のよいとされる歩容へ自発的に遷移することが知られており、この能力は、それぞれの脚の運動を巧みに協調させること(脚間協調)によって実現されている。同研究では、四脚動物が移動速度に応じて足並みを自発的に変化させる現象(歩容遷移現象)を四脚ロボットで再現しており、シンプルな制御則をそれぞれの脚が実行するだけで、歩容遷移現象を生み出すことに成功したということだ。

同研究では、「動物の動きをロボットに再現させることで、そのメカニズムを明らかにする」というアプローチを採用。四脚動物の歩容遷移現象を再現するメカニズムを明らかにするために、単純化された最低限の設定からロボットを設計された。単純化の内容としては、1本の脚の構造は1自由度のきわめてシンプルな構造とし、それぞれの脚のリズミックな運動を生成するコントローラーとして、位相振動子というシンプルな振動子モデルを採用。また、あらかじめプログラムして脚間の協調パターンを生成するのではなく、脚に荷重がかかっている間はそのまま身体を支持し続けようとするという、きわめてシンプルな制御則によりそれぞれの脚が運動リズムを調整するだけで脚間協調パターンを生成するように設定し、開発した四脚ロボットに提案した制御則を実装し、移動速度パラメータのみを変化させ、トレッドミル上にて歩行実験を行った

結果として、B図に示すように、移動速度のみの変化によってウォークからトロット、ギャロップへと自発的に歩容遷移することが確認された。さらに、トロットからギャロップへの歩容遷移過程において、ウマの歩容遷移においてもみられる「キャンター」とよばれる不思議な歩容も確認されたという。また、四脚ロボットのエネルギー効率を解析した結果、トロットおよびギャロップが各移動速度において効率のよい歩容となっており、ウマなどから得られた特性とよく一致していたということだ。

中央集権的アプローチの計算量はきわめて膨大となり、想定外の環境変化に対して脆弱。自律分散的(地方分権的) アプローチの計算量は少なく、環境適応性も高い。

同研究の成果は、ロボットの身体に内在する大自由度をいかに巧みに制御し、適応的なロコモーションを生成するか、というロボティクスにおけるひとつの大きな課題に対して新たなアプローチを提供すると期待されている。脳に相当するメインコンピュータで逐一正確に身体の各自由度を制御しようとする既存の中央集権的な制御アプローチに対して、同研究では、各脚で得られるセンサー情報(局所的な情報)のみを用いて脚の運動リズムを調整するというきわめてシンプルな制御則だけで、速度に応じて適切な足並みを自発的に生成するという自律分散的な制御アプローチを採用しているため、四脚動物に比肩しうる運動能力を有するロボットの工学的実現のための基盤技術となることも期待できるということだ。

また、同研究成果を発展させることで、実際の四脚動物の歩容の多くを再現する提案モデルは、災害現場など過酷な実世界環境を柔軟かつ効率よく移動するロボットの構築につながほか、飼い主の速度に合わせて自発的に足並みを変化させながら移動するユーザーフレンドリーな四脚ロボットの制御技術への応用や、コンピュータグラフィックスにおいて、身体の物理的特性を与えると自動的に動物のアニメーション動作を生成するアルゴリズムの構築などにもつながると考えられるということだ。