広島大学は3月20日、自然界にはほどんど存在しない「亜リン酸」がないと生き残ることができない大腸菌を作製することに成功したと発表した。ゲノム編集技術などによって作られた遺伝子組換え微生物が漏出した際のリスクを低減できる技術につながる可能性がある。
同成果は、広島大学大学院先端物質科学研究科 廣田隆一助教、黒田章夫教授らの研究グループによるもので、3月20日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
遺伝子組換え微生物が実験室環境から意図せず漏出した場合に備えて、宿主微生物が自然環境中では生存できないような性質をあらかじめ与えておく「生物学的封じ込め」という技術が開発されている。しかし、従来のビタミンやアミノ酸などの栄養源に対する要求性や、自殺遺伝子などによる生物学的封じ込めでは、封じ込めから逃れる変異体が出現しやすいなどの問題があった。
同研究グループは今回、あらゆる生物が必要とする栄養素であるリンに注目。通常の生物はリン酸(HPO42-)をリン源として利用するが、ほとんどの生物が利用することができない亜リン酸(HPO32-)を利用することができる特殊な微生物の機能に着目し、リンの代謝経路を改変することによって、亜リン酸だけしか利用できない性質を作り出すことに成功した。
作製した大腸菌のモデル株は、亜リン酸が得られない条件ではまったく増殖できず、2週間後には生存率が1億分の1以下になる。また、約5兆匹の大腸菌モデル株を亜リン酸が含まれない培地で3週間にわたって培養し、封じ込めから逃れる変異株が出現する可能性について調べたところ、1匹も出現しないことがわかった。大腸菌における封じ込め株の作製は、約10個の遺伝子改変により可能であるという。
同手法について同研究グループは、宿主微生物の安全性を大きく高めることで、リスク措置の簡便化が可能になり、プロセスの経済性が向上し、多くのバイオプロセスの実用化に貢献できるものと説明している。