半導体市場調査企業である米IC Insightsは3月16日(米国時間)、2016年における世界のファブレスICメーカーの国・地域別市場シェアを発表した。
ファブレスICメーカーは、2006年の世界IC売上高では18%程度であったが、2016年のそれは30%を占めるまでに規模を拡大している。この10年の間に、多くのIDMが製造をファウンドリに委託し、ファブレス化したことが主たる理由であるが、中国での新興ファブレスICメーカーの急成長も影響しているという。
2016年の世界ファブレスICメーカーの売上総額904億ドルにおける各国・地域別シェア(ファブレスメーカーの本社所在地で分類)を見ると、米国企業が過半を占めているが、2010年の69%から比べると16ポイントほどシェアを落としている。これは、BroadcomがAvago Technologiesに買収され、本社所在地がシンガポールへと変更されたことが大きい。AvagoはIII-V属ディスクリートデバイスの製造施設は所有しているが、ICの製造施設は所有していないので、IC Insightsは同社をファブレスICメーカーと判断している
国・地域 | 2016年のシェア | 2010年のシェア | 増減 |
---|---|---|---|
米国 | 53% | 69% | 16ポイント減 |
台湾 | 18% | 17% | 1ポイント減 |
中国 | 10% | 5% | 5ポイント増 |
欧州 | 1% | 4% | 3ポイント減 |
日本 | <1% | 1% | ppmオーダーまで減 |
その他 | 17% | 4% | 13ポイント増 |
表1 世界ファブレスICメーカーの売上高総額(2016年:904億ドル規模)に占める各国・地域別の市場シェア(2016年および2010年)。市場はファブレスICメーカーの本社所在国・地域により分類。その他地域のうち16%はシンガポールに本社を置くBroadcom(旧Avago)が占める (IC Insightsデータをもとに著者作成) |
ファブレスICの市場シェアを倍増させた中国の躍進
上記の表で注目されるのは、中国が2009年には5%に過ぎなかった市場シェアを2016年に10%へと倍増させ、さらに急成長しようとしている点である。実質的にファブレスの市場シェアが大きく伸びたのは、世界中で中国だけである点は特筆に値するだろう。中国は、将来有望な半導体製造拠点として注目されがちであるが、実は半導体設計分野でも世界の拠点となろうとしている。
IC Insightsが公開している世界ファブレスICメーカーのトップ50リストによると、中国のファブレスICメーカーは2009年ではHiSiliconのみであったが、2016年には11社に増加している。中国の市場シェア10%のうち、HiSilicon((売り上げの9割以上は親会社のHuaweiから得ている)、ZTE,、Datangの自社内部向けの売り上げが4%を占めている。
中国にはファブレスICメーカーが雨後の筍のように続々と誕生しているが、そのほとんどは弱小なベンチャー企業である。中国政府は、これらをM&Aにより、海外の競合企業に対抗しうる競争力のある企業へと整理統合する方向でファンド資金を使おうとしている。
PPMオーダーに転落した世界における日本のファブレス
日本は、相変わらずファブレス企業が育っておらず、トップ50社にはメガチップスしか入っておらず、しかもメガチップスの売上高(2017年3月期の予測)は600億円台にすぎない。2009年に日本勢の市場シェアは1%だったが、2016年には1%未満を切った。つまりPPMオーダーにまで低下してしまって、このままでは半導体製造シェア同様、さらに減少してしまうだろう。
次々と米国勢に買収される魅力的な欧州ファブレス
欧州勢が2010年の4%から2016年に1%にシェアを落としているが、これはM&Aによるところが大きい。欧州で第2位のファブレス半導体企業だった英CSRが米Qualcommに買われ、第3位のLantiqが米Intelに買収された。その結果、トップ50リストには、売上高12億ドル(約1400億円)の英Dialogだけが残った(2015年まで50社に入っていたノルウェーNordic Semiconductorは2016年の売上高が1億9800万ドルのしかなく、圏外に落ちた)。欧州のファブレスは、米国勢にとっても、そのユニークな設計技術資産が魅力的であるということだろう。米国に本社を置く企業に買収されたというだけであり、欧州ファブレスビジネスが衰退したわけではない。欧州におけるクリエイティブなIC設計活動は依然として旺盛であるといえる。また、ファブレスではないのでトップ50リストには登場しないが、半導体設計IPベンダである英ARMがソフトバンクに買収されたことは、記憶に新しい。