生理学研究所(生理研)は3月17日、光を照射することで神経細胞同士の結合部位である「シナプス」の活動を操作することが可能な、「光応答性シグナル分子阻害ペプチド」を開発したと発表した。
同成果は、生理研の村越秀治 准教授らのグループ、ならびにマックスプランクフロリダ研究所の安田涼平 所長らのグループによるもの。詳細は米国科学誌「Neuron」(電子版)に掲載された。
近年の研究から、シナプスの大きさやシナプス内部の分子の状態が変化することにより、グルタミン酸をはじめとしたさまざまな神経伝達物質への反応を変化させることが分かってきたほか、こうしたシナプスの変化が、記憶や学習とも関係があることも報告されるようになってきたが、その詳しい分子メカニズムについては、まだ良く分かっていないという。
そこで研究グループは今回、神経細胞の中に存在するすべてのタンパク量の中で数%を占める「CaMKII」と呼ばれるタンパク質に着目。同分子がシナプス内でどのような働きがあるのかを調査することを目指し、光を照射することで1μm単位で操作可能で、かつ秒単位でタンパク質の活性を操作することができる「青色光応答性CaMKII阻害ペプチド」を開発。同ペプチドを培養した神経細胞に導入し、2光子励起蛍光顕微鏡を用いてシナプスの刺激を行ったという。
その結果、グルタミン酸によりCaMKIIを短時間で活性することが、シナプスの機能の中でも、特にシナプスが可塑的変化する上で必須であることが判明したとする。実際にマウスを用いた記憶トレーニングでは、CaMKIIの活性が阻害されたマウスは、記憶も阻害されていることが確認されたという。
このため、研究グループでは、シナプスの可塑的変化は、記憶を形成する上で重要な機構であると考えられているため、CaMKIIを短時間で活性化することが、記憶にとって必須な条件であることが予想されると説明しているほか、今回のマウスに同ペプチドが適用できたことから、ほかの動物に対しても、生きたままの応用が可能であることが示されたとしている。
なお、 村越准教授は今回の成果について、開発された分子デザインは細胞内に存在するさまざまなタンパク質に対する阻害ペプチドに応用が可能であるため、将来の光医療開発に繋げていく成果になると考えられるとコメントしている。