IBMとスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究チームは、単原子磁石へのデータ書き込みと読み出しに成功したと発表した。磁気記憶デバイスの飛躍的な微細化につながる技術として注目される。研究論文は、科学誌「Nature」に掲載された。
原子1個で磁性を発現する単原子磁石は、EPFLとチューリッヒ工科大学の研究チームが2016年に初めて実験に成功したものであり、40K(-233.15℃)という低温条件でホルミウム原子が「残留磁気」と呼ばれる磁性を安定的に示すことが確認された。しかし、HDDなど通常の磁気メディアでデータの保存・読み出しを行うように、単原子磁石に対してデータの読み書きが可能かどうかはわかっていなかった。研究チームは今回、この疑問への解答を出すために、単原子磁石の特性を詳細に調べ、その磁気特性の制御を実証することをめざした。
ホルミウムは、希土類金属の一種であり、最強レベルの磁石の材料として使われることもある。今回の研究では、単原子のホルミウムを酸化マグネシウム表面に吸着させ、走査トンネル顕微鏡(STM)の探針先端でその磁性を制御することを試みた。
ホルミウムの単原子磁石にデータを書き込む際には、STM探針先端からパルス電流を送り込む。この操作によって単原子磁石の極性を反転させることができる。ホルミウム原子が保持している情報のビット状態を読み出す際には「トンネル磁気抵抗」と呼ばれる現象を利用する。
研究チームは、この方法で実際にホルミウム単原子磁石の極性を制御し、データの書き込み/読み出しが可能であることを実証した。単原子磁石内に記録されたデータが数時間以上に渡って保持可能であることも確認され、単原子磁気メモリが実現可能であることが示された。実験結果の検証には、単原子での電子スピン共鳴にもとづく新技術などが利用されており、同技術に関しても「Nature Nanotechnology」誌上に単独の論文が掲載されている。
今日、HDDの記憶密度は1テラバイトに達しているが、原子間距離1nmの間隔で単原子レベルでのデータ読み書きが可能になれば、磁気ストレージの記憶密度をさらに1000倍程度は高密度化できると考えられる。IBMでは「たとえばiTunesの全ライブラリに収められている3500万曲の楽曲データを、クレジットカード大のデバイスに収めることも、将来的には可能になるだろう」と予想している。