京都大学(京大)は3月17日、数km四方内にある数百のセンサからの情報を、IPを利用しないメッシュ型の多段中継を利用することで、低消費電力で収集できるIoT向け国際無線通信規格IEEE 802.15.10の最終仕様に対応した無線機を開発したと発表した。同成果は、同大 大学院情報学研究科の原田博司 教授の研究グループによるもの。
既存の多段中継可能な無線センサネットワークのうち、国際標準化されたものの多くは、IPなどのネットワーク層でのルーティング(経路選択)をベースにしているためデータパケット長が長く、工場や防災現場、農地などの電源供給が制限された環境にあるセンサやモニタでは、電池寿命が短いことが課題とされており、Wi-SUN FANほどの手軽さはないものの、データパケット長が比較的短いデータリンク層での低消費電力なルーティング(L2R)の国際無線通信規格策定が進められてきていた。IEEE 802.15.10は、米国IEEE 802委員会が2017年1月に標準化が終了した規格だが、最終承認された仕様に準拠した無線機はこれまで開発されていなかったという。
今回、研究グループでは、日本で運用上必要となるIEEE 802.15.4/4g/4eに対応した物理層、データリンク(MAC)層を有したIEEE 802.15.10最終標準仕様対応の基礎無線機を開発。同無線機を複数台用いて、データリンク層でのルーティングを用いたメッシュ型多段中継によるIP通信を行う基礎実験に成功したという。
同実験から、IEEE 802.15.10は低消費電力なメッシュ型多段中継の実現はできるものの、広域に数百のセンサ端末がある場合、特定の通信品質の良い端末が中継点となってしまい、各端末の送信回数に偏りが出てくることが判明。この問題を解決することを目的に、研究グループでは累積送信回数を加味した新たなルーティング方法を考案。これにより、ルーティング法適用前に比べ、送信回数の偏りを最大50%程度低減できることをシミュレーションで確認したという。
なお、この最適化ルーティングを含む通信プロトコルを実現するソフトウェアは同大より技術移転が行われる予定であり、研究グループとしては今後、実際の工場や農地といった条件下での屋外伝送の特性評価を行っていくとしているほか、Wi-SUNアライアンス内の電源供給が制限された環境におけるIoT用通信仕様の策定を行う「PLMM(Resource Limited Monitoring and Management)ワーキンググループにおいて、製造企業間の相互接続性認証のための仕様を策定していく予定だとしている。