理化学研究所(理研)は3月16日、非磁性半導体である「酸化亜鉛」の伝導電子が、磁石の性質(磁性)を持っていることを発見したと発表した。同成果は、理研 創発物性科学研究センターのデニス・マリエンコ研究員や川﨑雅司グループディレクターらによるもの。詳細は国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

同成果は、理研 創発物性科学研究センターのデニス・マリエンコ研究員、川﨑雅司グループディレクター(東京大学大学院工学系研究科 教授)、アンドレイ・ミシェンコ上級研究員、永長直人グループディレクター(東大大学院工学系研究科 教授)、サイード・バハラミー ユニットリーダー(東大大学院工学系研究科 特任講師)、マックスプランク微細構造物理学研究所のアーサー・エルンスト研究員、東北大学金属材料研究所の塚﨑敦教授らで構成される国際共同研究グループによるもの。詳細は国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載された。

シリコンやGaAsにMnなどの磁性元素を少量混ぜることで作られる磁性半導体は、電気的に磁性を制御できる不揮発性メモリなどの次世代半導体素子として期待されているが、磁性元素は半導体中の電子を散乱するため、電子の移動速度が低下してしまい、スイッチング速度が低下するという課題があった。

今回、研究グループは、2015年に川﨑グループディレクターらが開発した高品質な酸化亜鉛の単結晶薄膜を元に。酸化亜鉛の伝導電子に磁性を持たせることに挑んだという。具体的には、電子が磁性を担っていると、磁場を加えていないときでも磁化が磁場と同様な働きをし、電子を軌道を曲げ、結果として、試料の端に電子が蓄積される「異常ホール効果」の測定を行ったという。その結果、加える磁場が大きくなるにつれてゼロ磁場からホール抵抗が上昇し、ある大きさの磁場で飽和するという異常ホール効果の振る舞いと一致、伝導電子が磁性を持つことが示されたとするほか、測定されたホール抵抗は、温度が低いほど大きくなること、ならびに磁性元素を混ぜた磁性半導体に比べて、酸化亜鉛中の電子の移動速度は2~3桁高い値を維持できることから、酸化亜鉛が不揮発かつ高速なエレクトロニクス素子応用に有望な材料であることも分かったという。

さらに、観測された異常ホール効果の磁場依存性と温度依存性を理論的解析により検討を行った結果、酸化亜鉛に含まれる少量の結晶欠陥(欠陥)が小さな磁場によって磁性を示し、伝導電子に影響を与えていることが分かったという。これについて研究グループは、従来の非磁性半導体では、このような欠陥のみでは異常ホール効果は観測されず、必ず意図的に磁性元素を混ぜる必要があったが、酸化亜鉛は元々、電子間の反発が強く磁石になりやすい性質があるため、少量の欠陥のみで十分に強い影響を受け、伝導電子が磁性を持ったと考えられると説明している。

なお、研究グループでは、今回の成果について、従来の半導体では困難であった磁性と高速制御の両立という問題に対して、解決の手掛かりを与えるものと考えられると説明しているほか、亜鉛は資源として豊富に存在するため安価であり、酸化亜鉛は無害であるため環境負荷の小さい物質であることから、今後、動作温度の向上やデバイス化を進めることで、現在のメモリ素子の一部を置き換える材料として、低消費電力デバイスへの応用にも期待されるようになるとコメントしている。

酸化亜鉛試料の写真 (画像提供:理化学研究所)

酸化亜鉛で測定された異常ホール効果。異常ホール効果では磁場を加えるとホール抵抗が急激に増大し、ある磁場で飽和する現象が見られ、これは伝導電子が磁性を持つことを示すものとなる (画像提供:理化学研究所