世界最大の半導体メーカーである米Intelは3月13日(米国時間)、先進運転支援システム(ADAS)のグローバルプロバイダであるイスラエルMobileyeを153億ドルで買収すると発表したが、台湾の市場動向調査企業TrendForceは、この買収の背後にある事情を分析した記事を3月14日に発表した。

2021年に自動運転車を市場投入する準備

TrendForceによれば、世界の主要半導体メーカーは、急速に成長しているカーエレクトロニクス市場において有利な位置を確保することで主導権を握ろうとしているが、今回の買収はそれを端的に表わす動きだという。Mobileyeは車載カメラの画像認識に優れた半導体サプライヤであり、Mobileyeを買収することでIntelは、自社の高性能コンピューティングチップやIoT向けハードウェア製品をMobileyeの自動運転システム向け画像処理アルゴリズムと組み合わせることができるようになるほか、将来的には、クラウドコンピューティングを組み込んだ自動運転システムの開発につながる可能性もでてきた。2021年には、世界の主要自動車市場で最初の自動運転車の販売が見込まれているが、Intelは今回の買収と独BMWとのコラボレーションにより、こうした動きに遅れることなく自動運転車を市場に投入することができるようになると予測される。

AlteraとMobileyeからの技術導入で車載ビジネスを強化

Mobileyeの年間売上高は、2014年が前年比77%増、2015年が同67%増、2016年が49%増とこの数年、2桁成長を続けてきており、2016年には3億5000万ドルに達したとされている。営業利益率も33.8%と高く、今後も継続して高い業績を達成していくことが期待されていた。また技術面でも、コンピュータビジョン、ディープラーニング、データ解析、高解像度画像マッピングの専門知識を蓄積しており、当該分野の先行者というイメージを市場に植えつけることにも成功している。一方、先だってIntelに買収されたAlteraは、車載向けにもFPGAを提供してきており、これによりIntelは、そこで得た車載向けノウハウを獲得していると言え、これにMobileyeの車載技術資産を加えることで、車載半導体市場におけるIntelの地位が向上することが見込まれる。

図 Mobileyeの売上高と営業利益率の変遷(2014~2016年) 縦軸左:売上高(百万ドル)、縦軸右:前年比売上高増加率および営業利益率(%)、横軸:西暦年。表は上から年間売上高(単位:百万ドル)、前年比売上高増加率(%)、売上高利益率(%) (出所:TrendForce)

Mobileyeの顧客を活用することで市場参入機会を拡大

また、今回の買収によりIntelは、Mobileyeが築いてきた自動車関連機器メーカーとの密接な関係を利用して、車載市場に新たに参入しようという企業がしばしば受ける長い製品検証プロセスを回避することも可能になる。そのため、Intelは自動運転システムの需要に関連した新たな機会を迅速に獲得することができるようになることが見込まれる。

Mobileyeの技術ロードマップによれば、シングルレンズカメラのイメージプロセッシング・アルゴリズムを強化する計画を立てていた模様だ。こうしたソリューションは、将来的には道路の凹凸を検出するなど、さまざまな道路状況や交通状況を特定することにつながることが期待されている。また別ロードマップとして、複数のカメラに基づく自動運転システムも構築も掲げていた。

さらに、Mobileyeが保持している技術として注目されるのが、2016年にリリースされたマッピングソフトウェア「Road Experience Management(REM)」である。REMは、独自のEyeQファミリの車載チップと連携して、低帯域幅のインターネット経由で道路およびランドマークの情報を収集するように設計されているソフトで、これによりリアルタイムでマップ作成ができるようになるため、自動運転システムのさらなる発展につなげられるとして注目を集めている。

現在、Mobileyeのソリューションを採用している主要なブランドの自動車メーカーには、BMW、Fiat Chrysler Automobiles、General Motors、Ford、Volvoなどがある。同時に、Mobileyeは、AutolivやDelphiなどのTier 1システムサプライヤーを顧客としている。(著者注:Mobileyeの半導体チップは、日産自動車やマツダなどの一部の車種にも採用されている。)

IntelとBMWの提携関係がより強固なものに発展

Intel、Mobileye、BMWは2016年7月にパートナーシップ契約を締結して、2021年までに自動運転車を量産するリソースを蓄積することを宣言していた。この契約を遂行するため、Mobileyeは米Teslaとの提携を取りやめ、EyeQ 3チップより先進的な技術をTeslaに供給することはしないとしていた。

この決定は、自度運転向けイメージプロセッサ「EyeQ 5」の開発スケジュールを考慮したものと思われる。米国や日本などの主要自動車市場では、2020年に自動運転車に関する規制の大枠が決まり、施行することが期待されている。想定されていたであろう最良のケースは、EyeQ 5が自動運転規制の大枠が決まるタイミングで大量生産の準備が整うようになることだ。これはEyeQ 5を2021年に発売される予定の新車種に採用することができるようになることを意味する。

BMW-Intel-Mobileyeの協業体制も、自動運転車の最初の波が市場に押し寄せるであろう2021年にタイムリーに完全自動運転車を販売することを目指したものであった。販売数量と市場シェアを考慮するとMobileyeは、将来的にEyeQ 5の利益を最大化することを見越して、Teslaと決別しBMWを選択したと言える。2016年のBMWの新車販売台数は210万台を超えたのに対して、テスラの販売台数は約76万台にすぎないためだ。

IntelがMobileyeを買収したことで、今まで3社で進めてきた提携関係に変化をもたらすとTradeForceではコメントしている。これまでは、自動車業界を代表する自動車メーカー、半導体業界を代表する半導体メーカー、それに独立系のソリューション・プロバイダーという組み合わせであったが、今後は、BMWとIntelが互いに交渉するだけで済むといった、両者の提携関係が改善されることとなるため、開発スピードが向上するものとTrendForceでは予測している