新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学講座の斎藤亮彦 特任教授を中心とする研究グループは、糖尿病性腎症の成因に基づく治療法を見直すための新しい尿検査法を開発し、早期から予後を診断したりすることが可能になったと発表した。
同研究成果は、Diabetes誌(米国糖尿病学会誌)のオンライン版に掲載されたもの。糖尿病の合併症としての腎障害(糖尿病性腎症)は、透析導入原因疾患の第1位を占めている。また、糖尿病患者は腎症を合併すると心臓病や脳卒中の危険も増大することが知られており、糖尿病性の発症・進展を食い止 めることは、糖尿病治療における最重要課題のひとつとして挙げられている。今まで、糖尿病性腎症が発症・進展しやすい人とそうではない人が存在することは知られていたものの、どのようにしてそのような人を見分けるかは明らかではなく、また、現在行われている治療が個々の患者にとって妥当なものかを評価する方法も確立されていなかった。そこで、糖尿病性腎症の成因に基づいて、その発症・進展のリスクを予測し、治療に指針を与えるとともに、簡便に行える検査法の開発が求められていたということだ。
同研究グループは2015年に、肥満・メタボ型の糖尿病モデルマウスにおいて、腎臓の近位尿細管細胞に存在するメガリンという分子が「入り口」となって腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、リソソームという細胞内小器官にタンパク質代謝負荷をきたし、その機能を障害させることを起点として、糖尿病性腎症 が発症・進展する機序を明らかにした。今回の研究成果では、そのようなリソソーム障害による糖尿病性腎症の発症・進展機序に伴って、メガリンがエクソソームという微小構造物に搭載されて腎臓から尿中への逸脱が増加すること、そして、そのメガリンを尿中で定量することが糖尿病性腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性があることを明らかにした。
腎臓は約100万個のネフロンという構造体が集まってできており、糸球体というフィルターを通して、水分を含む血液由来の様々な成分が濾過され、尿細管の中を流れていく過程で、尿細管細胞で再吸収・代謝されたり、あるいは逆に尿細管細胞から様々な物質が分泌されて、最終的に尿が生成されている。ネフロンの数は生まれた時に決まっており、尿細管の長さはおおおよそ20歳代まで伸びていき、それが腎臓の代謝機能を規定するという。ネフロンの数が少ない、あるいは尿細管の長さが短い場合に糖尿病を罹患すると、それにかかる代謝負荷が増大し、糖尿病性腎症の発症・進展リスクが増大する可能性が生じてくる。また、一部のネフロンが障害されると残存するネフロンの負荷が増大し、さらに障害が進行するリスクが高まる。そのような場合、尿中メガリン測定値をクレアチニン値(機能ネフロン数を反映する)で除すことによって、単一ネフロン当たりの代謝負荷を評価することができる。この検査法は、糖尿病性腎症以外にも、様々な慢性腎臓病について、重症度や予後の診断に役立つ可能性があるという。
なお、今後の展開としては、尿中メガリン測定を組み込んだ臨床研究を行い、3~4年後を目処に尿中メガリン測定試薬の発売や、その後の薬事承認を目指すということだ。