東京理科大学などは3月13日、有機半導体材料として知られるペンタセンの単結晶中において、電気の流れを決める伝導電荷が「粒子」と「波動」の中間的な性質を示すことを実証したと発表した。
同成果は、東京理科大学理工学部工業化学科 中山泰生講師、千葉大学大学院融合科学研究科、分子科学研究所らの研究グループによるもので、2月27日付けの米国科学誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」オンライン版に掲載された。
電気伝導のメカニズムが「波動」的か「粒子」的かということは、その半導体材料の性能を決める重要な指標となる。シリコンなど無機物の半導体材料のなかにある電荷は、個々のシリコン原子に束縛された「粒子」ではなく、シリコン結晶の全体に拡がった「波動」としての性質をもち、電気伝導のメカニズムは、ちょうど水面を波が拡がっていくように、連続的な波動の伝播として説明することができる。
これに対して、多くの有機半導体材料では数十個の原子からなる有機分子が基本単位となり、伝導電荷の性質は分子の種類によって大きく異なることが知られている。フタロシアニンと呼ばれる有機色素分子では、電荷は個々の分子に閉じ込められた「粒子」としての性質を強く示すことが知られているが、ルブレンと呼ばれる別の分子の結晶では、シリコンの場合と同じように、分子の枠を超えて拡がった「波動」としての伝導電荷が実現することがわかっている。
今回、同研究グループは、これまで計測が困難だと考えられてきたペンタセン単結晶の価電子バンドの構造を、角度分解紫外光電子分光法により計測した。この際、シンクロトロン放射光という特殊な光源から出る、通常より波長が2倍程度長い紫外線を用いることで、ペンタセン単結晶の表面1分子層より内側の領域の価電子バンド構造を計測することに成功。試料内部における伝導電荷の有効質量が、自由電子の3.5倍程度であることを明らかにした。
さらにこの結果から、「粒子」的・「波動」的それぞれの場合について伝導電荷の速さを理論的に見積もり、実際のトランジスタデバイスについて報告されている電荷の移動速度と比較した結果、ペンタセン単結晶内部における伝導電荷が両者の中間的な状態であることが示された。
なお、ペンタセンの分子量はシリコン原子の10倍ほどあり、こうした大きく重い分子が集団で熱振動することが、電荷が「波動」的に拡がった状態になることを妨げることが予測されている。今回の研究では、ペンタセン単結晶を-150°Cまで冷却すると伝導電荷の有効質量が2割ほど軽くなることも明らかになっている。
今回の成果について同研究グループは、今後、高速かつスムーズに伝導電荷を動かすことを可能にする高機能な有機分子や、熱振動による電荷移動の妨害を受けにくい有機分子の開発を効率的に進めることが可能になることが期待されると説明している。