東京商工リサーチは3月10日、長時間労働に関するアンケート調査の結果を発表した。これによると、9割の企業で残業が存在し8割の企業で残業削減に取り組んでいるが、大企業に比べ中小企業などでは受注や賃金の減少への影響が大きく、長時間労働削減に向けたハードルが高いという。

残業の理由 (複数回答)

同調査は同社が、2月14日から24日にかけて全国の企業を対象にインターネットにより実施したもので、有効回答数は1万2519社。なお、資本金1億円以上を大企業(2898社)、個人企業や各種団体を含む同1億円未満を中小企業など(9465社)と定義している。

残業の有無を尋ねると、「恒常的にある」が57.3%で6割弱に上り、「時々ある」が同36.4%だった。「無い」と「させない」は合わせて6.1%と1割未満にすぎない。「残業がある」が全体の93.8%を占め、規模を問わずほとんどの企業で残業が行われている。

企業規模別では、大企業では「恒常的にある」が69.7%、「時々ある」が28.4%であり、残業がある企業は計98.2%に及ぶ。

中小企業などでは、「恒常的にある」が53.6%、「時々ある」が同38.8%であり、「残業がある企業は計92.4%で、大企業と比べて5.8ポイント低い。

残業がある企業にその理由を複数回答で尋ねたところ、「取引先への納期や発注量に対応するため」が37.6%で最も多く、以下「仕事量に対して人手が不足している」(24.7%)、「仕事量に対して時間が不足している」(21.1%)と続く。

大企業では、「仕事量に対して人手が不足している」が30.0%で最多だったのに対して、中小企業などでは「取引先への納期や発注量に対応するため」が40.6%で最も多い。中小企業などでは取引先との関係による理由が大企業を11.8ポイント上回り、納期(工期)を守り受注先との取引関係を維持するために残業が増えるという構造的な課題が浮かび上がっていると同社は見る。

労働時間が短縮する場合の影響 (複数回答)

残業時間の上限が決まり、現在より労働時間が短縮する場合に予想される影響を複数回答で聞くと、「仕事の積み残しが発生する」が28.9%と2位以下を引き離して最多だった。

以下、「受注量(売上高)の減少」(16.0%)、「従業員の賃金低下」(14.1%)、「影響は無い」(11.3%)、「従業員のモチベーション向上・心身健全化」(11.0%)、「持ち帰り残業を懸念」(10.4%)、「利益率の向上」(4.4%)と続く。

企業規模別に見ると、大企業では業務だけではなく従業員の心身の健康面への配慮も伺えるが、中小企業などでは、残業削減による今後の受注減少や従業員の賃金など営業面への影響を強く懸念している傾向が現れた。

残業の管理方法 (複数回答)

残業の管理方法を複数回答で尋ねたところ、「タイムカード」が36.6%で最も多い。

以下、「業務パソコンの勤怠管理ソフト導入」(26.7%)、「台帳記入」(25.0%)、「その他」(6.9%)、「把握していない」(2.6%)、「スマホ・タブレットなどのアプリで管理」(1.9%)の順だった。

大企業では勤務管理のIT化が先行しているが、中小企業などでは勤怠などの投資が行き届かず従来の管理が主流を占めており、残業管理への取り組みは企業規模により格差がある。

残業時間削減の施策 (複数回答)

残業時間を減らす努力をしているかを複数回答で聞くと、「はい」が79.7%と8割弱を占め、「いいえ」は12.4%と1割強にとどまった。

企業規模別に見ると、中小企業などは「いいえ」が14.0%で大企業(7.1%)のほぼ2倍に達している。

「いいえ」と回答した理由では、「納期・期日の問題などもあり、個々の企業努力ではどうしようもない」「中小零細企業は社員が絶対的に少なく簡単には改善できない」など中小企業に根強い人手不足によるものが多く、自社解決の限界も伺えるという。

残業削減に取り組んでいる企業における施策を尋ねたところ、「仕事の効率向上のための指導」が37.8%と約4割を占めて最多だった。

以下、「仕事の実態に合わせた人員配置の見直し」(29.8%)、「ノー残業デーの設定」(15.8%)、「勤務体系や役職等の変更」(8.2%)、「労働組合などとの協定見直し」(1.8%)、「削減度合いに応じたインセンティブ支給」(0.9%)と続き、効率化の施策が多くを占める。

企業規模別に見ると、上位の項目の順序は変わらないが、「ノー残業デーの設定」は大企業が24.7%、中小企業などが12.5%と約2倍の開きがあり、人手不足で余裕の乏しい中小企業などではノー残業デーの設定は困難な実態を示していると同社は見ている。

残業削減に取り組んでいない理由 (複数回答)

一方、残業削減に取り組んでいない理由では、「必要な残業しかしていない」が51.0%と半数を占める。

以下、「したくても、取引先との関係からできない」(19.8%)、「その他」(14.2%)、「残業が無いので削減の必要が無い」(11.6%)、「以前に取り組んだが効果が無かった」(3.1%)の順だった。

残業時間の削減には「取引先との関係」や「仕事の積み残し」など、人手不足も加わり自社努力だけで解決が難しい課題も浮かび上がった。とりわけ中小企業は資金的な余力も乏しく、人員や取引関係など自社での取り組みに限界も抱えている。人口減少と高齢化が進む中で、労働人口は減少し、単なる無駄を省く合理化では問題の根本的な対応は難しいともいえるという。

過重労働の解消やワーク・ライフ・バランスの実現は企業規模に関係無く最優先の課題でもあるとした上で、大企業よりも労働時間が売上や賃金に直結する中小企業の実態をより正確に把握し、実のある政策実現に向けた問題提起と解決に結び付けることが急がれると同社は指摘している。