北海道大学(北大)は3月7日、国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟において、氷点下に冷却した水中での氷の結晶成長実験に成功したと発表した。
同成果は、北海道大学低温科学研究所 古川義純名誉教授らの研究グループによるもので、3月6日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
結晶成長の実態を探るには、成長速度の時間変動を精密に測定することが不可欠だが、地上実験では対流などの効果で成長速度が変化しやすい。一方、国際宇宙ステーションでは安定した無重力環境が維持されるため、対流などの乱れを完全排除することができる。北海道大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、氷の成長速度を精密に測定する宇宙実験装置「Ice Crystal Cell 2」を開発。JAXAの種子島宇宙センターから打ち上げられた同装置は、「きぼう」日本実験棟に設置された。
実験は、地上から送信する信号をもとに自動制御で、氷結晶の成長条件を変えて繰り返し行われた。124回の実験のうち22回で氷の成長速度の精密測定に成功。この結果、氷点下での生体の凍結を防ぐ機能を持つ「不凍糖タンパク質」が水中に含まれると、氷の底面では成長速度が純水中に較べて3~5倍も速くなり、さらに周期的に変動(振動)することが明らかになった。
従来、不凍糖タンパク質は氷の成長を抑制するために生体の凍結を防ぐと考えられてきたため、この結果はこれまで予測されていなかったものであるという。しかし実際には、氷の結晶外形の効果により成長の速い面は消失し、最終的に最も成長速度の遅い面で囲まれるため成長が止まり、凍結抑制に対する不凍糖タンパク質の役割を矛盾なく説明できることが示された。
不凍糖タンパク質は、流氷直下の氷点下の環境に住む魚の凍結を防ぐ機能を持っており、今後同研究グループは、今回の研究を進展させることにより流氷の海に住む魚がなぜ凍死しないのかという生命の不思議を説明するモデルに書き換えを迫っていくとしている。