物質・材料研究機構(NIMS)と北海道大学(北大)は3月3日、燃料電池の電極で起こる酸素から水を作り出す反応をモデルに、もともと特定条件では触媒として不活性な金がほかの物質と接合することで表面がナノ構造化し、不活性な条件下でも触媒として活性化することを見出したと発表した。
同成果は、NIMSエネルギー・環境材料研究拠点ナノ界面エネルギー変換グループ 坂牛健研究員、魚崎浩平フェロー、同ナノ材料科学環境拠点 Andrey Lyalin特別研究員、同MANAの研究者 冨中悟史氏、北海道大学大学院理学研究院 武次徹也教授らの研究グループによるもので、1月30日付けの米国科学誌「ACS Nano」に掲載された。
酸素から水を合成する反応や水から水素を生成する反応は、燃料電池などエネルギー変換・貯蔵デバイスに利用されている。たとえば燃料電池の電極の一方では、酸素に水素イオンと電子が反応して水に変換されるが、その反応では白金や一部の酸化物が触媒として有効であることがわかっている。しかし反応経路が複雑なため、電極上での反応過程や触媒の働きについての詳細はいまだに解明されていない。
そこで同研究グループは今回、もともと触媒として不活性な物質が、別の物質と接合することで活性化する系に着目。同物質の化学的・構造的な変化と触媒活性との関係を調べることで、電極上の反応過程の解析を試みた。
具体的には、窒化炭素構造体のひとつであるグラファイト状窒化炭素の結晶構造について調査。この結果、これまで平坦な二次元層が重なっている層状化合物だと思われていた同物質が、周期的な細孔を持ちかつ波打ったユニークな結晶構造を持つことがわかった。
同物質は、剥離して原子数層分の二次元物質として金と接合させることで特異的な界面構造を持つ触媒を得ることができる。そこで、水素発生反応を用いて、同触媒の界面ナノ構造化による影響の有無を調べたところ、界面ナノ構造化により触媒活性点が形成され、より高効率で水素を生成していることがわかった。また、酸素から水を合成する反応にこの界面ナノ構造化触媒を適用すると、高効率かつ高選択的に水を生成していることがわかった。
さらに、なぜこのような触媒活性が可能になるのかを第一原理計算により検討したところ、二次元窒化炭素構造体と金との界面の構造が反応中間体を安定させることによって、選択的に水の合成反応が進行していることが示唆された。
同研究グループは今回の成果について、燃料電池に用いるための高効率かつ高選択性な触媒を設計できる技術に結びつくことが期待されると説明している。今後は、さまざまな物質との組み合わせにおいて、界面のナノ構造の変化と触媒活性との関係を検討し、電極上での反応過程の理解を目指していきたい考えだ。