中国EC市場で存在感を増しているインフルエンサーマーケティング。越境ECを行う日本企業にとっても、重要なプロモーション手段になってきています。中国におけるインフルエンサーマーケティングの効果や将来性について、中国2大SNSと言われる「微博(Weibo)」と「微信(WeChat)」上で広告配信事業を手掛ける、IMS社の李檬CEOに話を聞きました。
爆買い終焉で中国への越境ECが重要に
――日中間の越境ECの現状から、日本の商品に対する中国人の需要について、どのように捉えていますか?
李:中国の消費者は、日本の商品に対して良いイメージを持っていますし、人気は高いです。一方、日本の商品を越境ECで購入する中国人は急速に増えているものの、まだ少数派であり、日中間の越境ECはアーリーステージ(初期段階)だと捉えています。
――日本では、中国人観光客による、いわゆる「爆買い」が収束しつつあると言われており、今後は、中国人旅行者が帰国した後、越境ECで日本の商品を買ってもらうための取り組みが重要になっていくのではないかとされています。
李:中国人観光客が日本で買い物をして、商品やサービス、ブランドの魅力を理解すれば、帰国後も越境ECで購入するでしょう。実際、米国との越境ECが前例としてあります。米国を旅行した中国人観光客が、現地で生活したり実店舗で買い物をしたりして、米国の商品を気に入り、帰国してからも越境ECで購入することは多いです。
――帰国後も越境ECで買い物をしてもらうには、日本の商品が中国でも買えることを、中国人観光客に知ってもらう必要がありますね。
李:中国向けに日本の製品を販売する場合、天猫国際(TmallGlobal)か京東国際(JDWorldwide)を通じて行うことが多いと思いますが、例えば、アマゾン中国(Amazon.cn)で商品を販売している企業は、そのこともプロモーションすることが大切です。販路を天猫国際(TmallGlobal)と京東国際(JDWorldwide)に限定してしまうと、越境ECは盛り上がりに欠けてしまうのではないでしょうか。
――日本の企業が越境ECに取り組む場合、自社サイトを運営するのと、モールに出店するのでは、どちらが良いと思いますか?
李:個人的には、自社ECサイトを立ち上げた方が、長期的に顧客獲得や充実したサービスを提供する上で望ましいと思います。ただ、中小事業者など、リソースが限られる企業は事業を一から全て自社で行うのは難しい。カスタマーサービスやアフターサービスといった付帯業務のほか、SNSマーケティングにも取り組まなくてはなりませんから。
成長続ける中国最大級のSNS「微博(Weibo)」
――中国市場に参入している日本企業は、中国消費者向けのプロモーション・ツールとして、「微博(Weibo)」と「微信(WeChat)」を比較して、登録ユーザー数の多さから「微信(WeChat)」での施策を検討することが多いように思います。当社としては、「微博(Weibo)」と「微信(WeChat)」はマーケティングツールとしての役割が異なるので、うまく組み合わせて活用すべきだと考えているのですが、「微博(Weibo)」がなぜECのプロモーションに適しているかを改めて教えてください。
李:「微博(Weibo)」の特徴は、拡散に長けていることです。「微博(Weibo)」の業績は下向きなのではないかと言われることもあるようですが、実は直近の業績はものすごく良い。月間利用者数は3億人を突破しましたし、ナスダック株式市場における時価総額は、2016年初頭では20億米ドル(約2,000億円)でしたが、8月には100億米ドル(約1兆円)を突破しました。株式市場の評価が高いということは、業績の見通しが良好なのだと思います。
――「微博(Weibo)」は2014年後半から2015年前半にかけて、少し足踏みをしていた印象がありましたが、2016年に入って株式市場の評価が急上昇したようですね。
李 そうです。2015年までは、「微博(Weibo)」のユーザーは主に北京、上海、深セン、広州の4大都市に集中していました。しかし、2015年からは、それ以外の地域でのプロモーションを本格的に開始し、そのことが月間利用者数の増加に寄与し、結果的に時価総額の高騰にもつながっています。
――「微博(Weibo)」が地方都市でのユーザー開拓を強化しているのは、アリババが地方都市でのECを強化すると宣言したことと関連しているのでしょうか?
李 直接関係しているかどうか、真意はわかりませんが、アリババも「微博(Weibo)」も、中国の地方都市の活力に着目し、注力しているのは共通しています。今後、日本の企業が中国の消費者に商品を買ってもらうには、地方都市も無視できないでしょう。中国市場の成長の果実は、地方都市から生まれてくると考えて良いと思います。
――日本の企業が中国でプロモーションに取り組む上で、地方都市と4大都市では戦略を変えるべきでしょうか。
李:地方都市の消費者は、一度使った商品を継続使用する可能性が大都市に比べて高いです。理由は、地方都市は小売店の数が大都市ほど多くないので、それなりの品質の製品を使い始めると、そのまま使い続ける傾向にあるためです。地方都市におけるマーケティングで注意すべき点は、まずは消費者にとってコストパフォーマンスが良い商品を展開した方が良いということ。大都市では贅沢品や高級品を最初から販売しても良いですが、地方都市の場合、まずは中間価格帯の商品を販売した方が良いでしょう。
――4大都市と地方都市では打つべき戦略が違ってくるわけですね。
李:そうですね。
――中国でオンライン広告を配信する場合、4大都市向けと地方都市向けでターゲットを変えられるのでしょうか。
李:技術的には、ターゲティングは可能です。ただし、ターゲティングの精度を高めるほど広告コストは上がりますから、やみくもにターゲティングの精度を高めれば良いというわけではありません。ターゲティングの精度と広告コストのバランスをとった戦略が必要です。特に、ターゲティング広告の一般的な手法であるRTB(Real Time Bidding)は値段が高騰しやすいです。一方、当社の広告はSNSを使うので、広告出稿金額が入札方式ではなく定額のため、広告主にとって扱いやすいと思います。
「微博(Weibo)」上でのインフルエンサーマーケティングの効果とは
――越境ECを行っている日本の企業に「WEIQ」を提案すると、リスティングやリターゲティング、モール内バナーといった広告などと比較した結果、現段階ではまだ「最初はモール内バナー広告を」と選択される企業が多いようですが、越境ECにおいて「WEIQ」を積極的に採用したほうが良い理由はありますか?
李:リスティング広告など従来の広告と「WEIQ」の根本的な違いは、従来の広告は企業側のメッセージを一方的にユーザーに配信しますが、「WEIQ」はKOL(Key Opinion Leader、ネット上のインフルエンサー)に対する信頼感や、KOLとフォロワーとの信頼関係をベースに広告を配信していることです。だからこそ、KOLによる広告は拡散しやすいし、ユーザーにも受け入れられやすい。また、天猫国際(TmallGlobal)のモール内検索から店舗へと集客するには、広告などを出して露出を増やす必要がありますが、KOLの広告を活用した場合、ユーザーはKOLのSNSアカウントから直接商品ページを訪れますから、モール内の広告や検索対策を行う必要がありません。
――日本ではアドブロックツールなども普及し始めており、ネット上の広告にネガティブな印象を持つ消費者が増えています。中国の消費者は、ネット広告にどのような印象を持っているのでしょうか。
李:広告に対するネガティブな感情は世界共通ですね。ただ、広告を出すタイミングが非常に重要で、ユーザーが広告を受け入れやすい時に広告を表示すれば、効果は高まります。
――広告には、中国人が好むクリエイティブやコピーを使うことも重要ですよね?
李 もちろん素材は大事です。ただ、そもそも、リスティング広告やバナー広告の効果は限界に達しつつあります。画像や文章をどんなに工夫しても、効果に限界があるのが実情です。
――KOLは「ユーザーの知りたいこと」をピックアップして発信するから、KOLが配信する広告はユーザーに受け入れられやすく、拡散しやすいということでしょうか?
李:そうですね。最近では成功事例も出てきています。例えば、グルメジャンルのKOLが「微博(Weibo)」のアカウントを使い、料理中の写真や動画を配信しながら包丁を販売したケース。日本円で4万~5万円する高価な包丁を、アフィリエイトと動画、ライブ配信を組みあわせてプロモーションした結果、たった1日で、大型量販店の3か月分に匹敵する販売実績を達成しました。
フォロワーはインフルエンサーを応援
――動画の中で、どのようにプロモーションを行ったのですか?
李:冒頭で包丁メーカーが広告主であることを説明し、実際に料理をしながら包丁が良いか悪いかを試してみるという趣旨をフォロワーに伝えてから、料理をしながら動画で包丁の利便性などを説明しました。動画にはショッピングサイトへのリンクを貼っています。
――広告主がいることも発表するのですか?
李:もちろんです。
――中国のオーディエンスから、広告だからという理由で嫌われませんか?
李:動画を見ているのはKOLのファンです。広告で収入を得ないとKOLは生活していけないということを理解しているので、受け入れています。
――フォロワーはKOLを応援するような心理だと。
李:そういう気持ちもあると思います。ただし、買うかどうかは別問題で、動画を見たオーディエンスが、良い包丁だと感じなければ買わないでしょうね。
――そうなると、人気が高いKOLが商品を取り上げても、商品が良くなければ売れないこともあるわけですね。
李:そういうこともありますが、その場合、商品の良し悪しだけでなく、フォロワーの経済力や、商品との相性も影響しますね。
――日本の企業の中には、KOLを活用した結果、商品の認知は高まったが売り上げにはつながらなかった事例もあるようです。どのように改善すれば、直接的な売り上げにつながるでしょうか。
李:個別の事例を具体的に分析しなくては何とも言えませんが、まず確認すべきは「クリック数」です。クリック数が少ないとすれば、それは露出が足りない可能性があるし、広告の写真や文字などクリエイティブが良くないこともあるので、改善しなくてはいけない。一方、それなりのクリック数があるのにコンバージョンしていないのであれば、商品の価格設定が悪い場合や、商品のパッケージ写真が悪い場合が多いです。ただ、このあたりは、実際に分析してみないと具体的にはわかりませんが。
――実際に広告を配信して、数字を分析し、PDCAを回していくことが必要だと。
李:そうです。
――PDCAを回すとき、「WEIQ」のKOLは変えた方が良いでしょうか?
李:KOLの選択は非常に大事ですが、変更しようがしまいが、何より分析が重要です。
――日本で販売している商品を、そのまま中国で売るのではなく、中国市場向けに価格やパッケージを変更することも必要ですか?
李:包装や価格設定を変えることも重要です。例えば、日本の健康食品を中国で販売した企業の事例では、価格が高すぎて、いくら広告を投資しても売れませんでした。広告を投資する前に、価格が妥当かをリサーチすることが必要です。中国人は「爆買い」のイメージが強いかもしれませんが、実際には価格に敏感に反応します。
ユーザーとの双方向のコミュニケーションを
――「微博(Weibo)」のアカウントを運用する際、広告以外では何を投稿すれば効果的でしょうか。
李:経済力がある企業であれば、「微博(Weibo)」の運用はプロに任せた方が良いと思います。言語の壁はもちろんですが、中国の消費者の好みや文化などは日本と異なりますので、どのようなコンテンツを、どのタイミングで配信すれば効果的かはプロの方がよく知っています。予算に余裕がなく、専門家に委託できない場合、オンラインやオフラインでイベントを1~2か月に1回以上開催し、それをコンテンツとして投稿するなど、アカウントをアクティブに運用してください。「微博(Weibo)」はユーザーと双方向のメディアなので、単純に企業が一方的に商品をPRしても効果は期待できません。フォロワーからの提案を受け、それにフィードバックしたり、フォロワーからの質問に丁寧に答えたりするなど、コミュニケーションをとることが大事です。
――発信する内容も重要だが、アカウントを見に来てくれたフォロワーに対して、しっかり対応することも大事だということですね。
李:そうです。せっかくアカウントを見に来てくれたユーザーを放っておいたら、すぐに流出してしまいます。
――中国でのプロモーションにSNSを活用する場合は、そういったメディアの特性をしっかり理解して運用を設計することが必要ですね。これまでお聞きした話から、日本企業が越境ECにチャレンジする際はまず、天猫国際(TmallGlobal)への出店と「微博(Weibo)」でのKOLを使ったプロモーションから検討するのがよさそうだということが分かりました。今日はありがとうございました。
インタビュアー:藤田 和重
アライドアーキテクツ株式会社
SMMLab
記事構成・執筆:渡部 和章
ライトプロ株式会社
本稿は、ソーシャルメディアマーケティングラボにて掲載された記事を転載したものです。
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