アリゾナ州立大学の研究チームは、電流のオン/オフ切り替えが可能なDNAスイッチを開発した。DNAを利用したバイオエレクトロニクスの実用化に寄与する成果として注目される。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。
DNAの二重らせん構造にはπ-電子スタッキングが存在しており、電子はこのスタッキング系を飛び移りながら長距離移動できることがわかっている。この性質を利用すれば、DNAをナノサイズの電線として使うことができると考えられる。また、最近では、DNAを材料として任意の三次元ナノ構造を形成する研究も進んでおり、これらの技術を組み合わせることで、より複雑なDNAデバイスが実現できると期待されている。
DNAデバイスを実用化するためには、DNAに電流を流すだけでなく電流のオン/オフ切り替えを制御することも必要になるが、これについては今まで実証されていなかった。今回の研究では、化学修飾したDNAを用いて、DNA中での電気伝導度の切り替え(電荷移動のスイッチング)に初めて成功した。
研究チームは、DNA塩基の一部をアントラキノンに置換した。炭素の三環構造を持つアントラキノンは、酸化還元作用のあるレドックス基の一種であり、DNA対のあいだに挿入することができる。実験では、DNA分子に電気化学的なゲート電圧をかけ、アントラキノンの酸化状態と還元状態を切り替えた。
走査トンネル顕微鏡(STM)探針と基板のあいだをDNAでつなぎ、STM探針(ソース電極)から基板(ドレイン電極)に向けて、DNA中を電流が流れるようにした。この状態で、DNAが入った溶液中に銀電極を挿入し、銀電極が電気化学的なゲート電極として作用するようにした。
ゲート電圧をかけることで、アントラキノンの酸化還元状態が切り替えることができる。酸化とはアントラキノンから電子が放出される状態、還元とはアントラキノンが電子を受け取る状態を意味する。この状態変化に対応して、DNAの電気伝導度が高レベル/低レベルの2つの値のあいだで可逆的に切り替わることを、走査トンネル顕微鏡を用いた測定によって実証した。
今回の研究は、単分子レベルでの酸化還元反応や熱力学的現象を調べるためのツールとして化学修飾DNAが利用できることを示した点でも意義がある。研究チームは、DNAナノデバイスの実現をめざして、さらなる研究を続けるとしている。