米国本社であるMicrosoftの3代目CEOとしてSatya Nadella氏が就任したのは2014年2月。既に3年の月日が流れたが、その間同社は変わり続けてきた。その影響は日本法人である日本マイクロソフトを始めとする各社に影響を及ぼし、ビジネス戦略もモバイルやAI(人工知能)など、過去のMicrosoftを知る方々にとっては別の企業に見えることだろう。このように変革し続けている同社だが、ここ数年日本法人は「デジタルトランスフォーメーション」に注力している。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長である平野拓也氏は、「日本企業が自らビジネスの方法や方向性を変革させなければならない。そのために日本マイクロソフトは支援する」と、ことあることに発言してきた。日本マイクロソフト自身も「働き方改革」など多くの取り組みを行いつつ、実践した結果を日本の企業に提供してきたが、日本のデジタルトランスフォーメーションを推進する一環として、日本マイクロソフトはアジア13カ国・地域の経営者1,494人(日本115人)を対象に行ったアンケートの集計結果を発表している。今回その結果を要約して読者諸氏にご報告したい。

日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏

日本マイクロソフトが公開しているのは、「デジタルトランスフォーメーションの現状および準備状況」「デジタル技術の活用状況」「デジタルトランスフォーメーションを進めるリーダーシップの状況」の3つ。まず1つの現状及び準備状況だが、アジア全体では27.4%に対して日本は15.7%と低い数値が明らかにされている。その差は日本人の"真面目さ"にあるのではないだろうか。アンケート内で「自社にとってもっとも適切なもの」という項目で、日本企業は「管理や課程、管理手法の確立」に票を投じているが、アジアに目を向けていると皆無である。確かに既存のワークスタイルと照らし合わせると、社内の管理手法は重要ながらも、筆者の目にはデジタルトランスフォーメーション推進の足かせになっているように見える。

2つめのデジタル技術の活用状況だが、こちらは「クラウドとデバイスによるリモートワーク環境」「組織のデジタル化」「データ分析による経営」「クラウドの重要性」の4項目を用意し、経営者は複数回答可能な形で集計した。その結果はアジア平均79.5%。日本は52%に留まっている。他方でデジタルトランスフォーメーションの推進を阻害する要因として、「サイバーセキュリティ上の脅威」「不確実な経済環境」「デジタルスキルを持った人的リソースの不足」「政府とICT基盤のサポート不足」「経営層のリーダーシップ不足」を上げたという。そして3つめとなるリーダーシップの状況について、アジア全体は55%、日本は30.3%。こちらは自身が自己のリーダーシップを評価する形になるため、自制心が働いた可能性も拭い切れないが、先の調査結果と照らし合わせても日本企業の保守性が浮かび上がる結果であることは確かだ。

「デジタル技術の活用状況」の調査結果

調査結果の日本向けデータもPDFファイルでダウンロードできる

他方で今回の調査結果から、日本マイクロソフトは「緊急性のあるデジタルトランスフォーメーションの推進」「組織のデジタル化」「信頼できるパートナーの確保」の3つが急務であると訴える。特に最後のパートナー戦略は日本マイクロソフトが2017年度重点分野の1つに掲げており、ワークスタイル変革やセキュリティ、グローバルオペレーションの3要素で顧客支援を行うと強調してきた。2017年1月の記者説明会で平野氏は、「推進する上で顧客との会話や(日本マイクロソフトに)期待される内容も変わりつつある。既定概念を持つ顧客にも新たなビジネスモデルを提案したい」と自社との協業で、デジタルトランスフォーメーションを進めやすくなるとアピールしていた。そのため、同社は新たなクラウドソリューションとして産業特化型サービスなど新市場開拓も推進中である。

デジタル社会を目指す上で日本政府関係者も、人材確保・育成が重要なため、産学官民一体の取り組みが必要だと講演などで述べてるが、それは一社員から経営層まで一環した価値を持ち、デジタルトランスフォーメーションを社会文化の1つとして捉える必要がある。デジタル化による組織変革、ビジネス変革は直後に目で見えるようなものではないため、民間企業が目の前の数字に惑わされるのは致し方ない。だが、日本のビジネスシーンが"失われた20年"から脱却するには、デジタルの力やクラウドを活用したビジネス変革を起こさないことには難しいだろう。

阿久津良和(Cactus)