東北大学は2月27日、腎臓の発生期における遺伝子発現の制御因子Nrf2の過剰な活性化が腎性尿崩症を引き起こすことを発見したと発表した。

同成果は、東北大学大学院医学系研究科 鈴木隆史講師、山本雅之教授らの研究グループによるもので、2月24日付けの英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

腎性尿崩症は、腎臓の腎尿細管細胞の抗利尿ホルモンに対する反応の障害により尿の濃縮ができず大量の希釈尿の排泄に至る疾患。一方、Nrf2は環境ストレスに応答して活性化する転写因子であり、さまざまな局面で生体を保護している。これまでの研究で、全身で常にNrf2を高レベルで発現する遺伝子改変マウスを作製すると、マウスは食道閉塞による母乳摂取不全のため生後間もなく死亡してしまうことがわかっていた。

今回、同研究グループは、食道におけるNrf2の発現を欠失することで、成獣まで生育できる 遺伝子改変マウスを作製し、食道以外の全身の臓器・組織でのNrf2過剰活性化による影響を検討した。

この結果、食道以外の全身の臓器・組織でNrf2が過剰活性化した成獣マウスでは、腎尿細管のアクアポリン水チャネルの発現量が低下することにより、水の保持機構が正常に働かなくなり、尿崩症を引き起こすことが明らかになった。さらに、Nrf2を抑制するKeap1遺伝子の発現を胎児期から腎臓特異的に破壊してNrf2を活性化させたマウスを作出したところ、同じように尿崩症を発症した。つまり、尿崩症は腎臓におけるNrf2活性化が原因であると考えられる。

一方、成獣になってから同様にKeap1遺伝子を破壊して、腎臓特異的にNrf2を活性化させたマウスは、尿崩症を発症しなかったという。したがって、腎性尿崩症の発症には腎臓の発生期におけるNrf2の過剰活性化が重要であることがわかる。

同研究グループは、今回の成果から、腎臓が形成される時期の過剰な環境ストレスへの暴露は腎性尿崩症を引き起こすリスクがあることが示唆されるとしており、今後の腎性尿崩症の発症機序の理解に役立つことが期待されるとコメントしている。

腎臓発生期におけるNrf2活性化は腎性尿崩症を発症する (出所:東北大Webサイト)