東京大学(東大)は2月17日、二流化タングステン(WS2)ナノチューブに対して電解質ゲートを用いたキャリア数制御を行うことにより、WS2ナノチューブの電気伝導性を制御できること、電子を多量にドープした領域で超伝導が発現することを発見したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻 岩佐義宏教授、同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 井手上敏也助教、同研究科物理工学専攻の大学院生 秦峰氏、理化学研究所物質評価支援ユニット 橋爪大輔ユニットリーダーらの研究グループによるもので、2月16日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
WS2ナノチューブは、グラフェンに次ぐ原子層物質として近年注目を集めている、遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる物質群のひとつであるWS2のナノ構造体の一種。同材料は金属と絶縁体の中間の電気伝導性を示す半導体であり、固体ゲート絶縁体材料を用いた電気伝導性の制御や力学特性の研究が行われてきたが、超伝導を含めた電気伝導性の大幅な制御はこれまでに報告されていなかった。
今回、同研究グループは、多層WS2ナノチューブを基板上に分散させ、単一ナノチューブのデバイスを作製。ゲート絶縁体材料として電解質(KClO4)を用いることで電気伝導性の制御を試みた。ゲート絶縁体材料である電解質に電圧を印加すると、電解質中のイオンが物質表面や原子層物質の層間に集積して物質中に電荷が蓄積され、大幅なキャリア数の制御が可能となる。この結果、半導体であったWS2ナノチューブに電子を蓄積して金属的電気伝導特性にすることに成功。電子を多量に蓄積した領域では、電気抵抗が5.8K以下でゼロになる超伝導が発現することを発見した。
さらに、特に磁場下での電気伝導性の振る舞いを詳細に測定することにより、電気抵抗がチューブ軸と磁場の角度に大きく依存する異方的な振る舞いを示すことや、磁場がチューブ軸に平行な場合に、円筒を貫く磁場に電気抵抗が影響を受けること、電流電圧特性が磁場と電流が平行か反平行かで異なる振る舞いを示すことを明らかにした。これらの超伝導特性は単一ナノチューブに特有のものであり、前例のない特異な超伝導状態が実現されていることを示しているという。
同研究グループは今回の成果について、対称性が破れた低次元電子系における新奇超伝導という新たな学術分野を切り開く礎となるだけでなく、省エネルギーナノエレクトロニクスに新たな指針を与えることが期待されるとコメントしている。