京都大学(京大)などは2月17日、分子からなる物質として最高の超伝導転移温度をもつフラーレン化合物超伝導体が磁場に対して非常に頑丈であり、超伝導が壊れる磁場の上限値が立方晶構造をもつ物質では最大の約90テスラに上ることを発見したと発表した。
同成果は、京都大学理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 笠原裕一准教授、東北大学原子分子材料科学高等研究機構 Kosmas Prassides教授、東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター・物理工学専攻 岩佐義宏教授らの研究グループによるもので、2月17日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
超伝導は電気抵抗がゼロになる現象だが、ある大きさ以上の磁場を加えると超伝導状態は不安定になり壊れてしまう。このような超伝導を破壊する磁場の上限である上部臨界磁場Hc2と超伝導転移温度Tcの関係を明らかにすることは、基礎研究、応用研究、材料開発において急務とされている。
一方、フラーレンC60を構成単位とするフラーレン化合物超伝導体は、分子性物質のなかでは最高の転移温度38Kを示す高温超伝導体として知られている。同物質は、銅酸化物高温超伝導体と類似してモット絶縁体から超伝導体への相転移を示すが、この超伝導の発現メカニズムは長く謎に包まれており、Hc2とTcの関係も明らかになっていなかった。
今回、同研究グループは、RbxCs3-xC60という組成の化合物を合成。これにより、これまで高圧下でのみ観測されていたモット絶縁体-超伝導体転移を常圧で観測可能となった。さらに同研究グループは、約62テスラまでの超強磁場中におけるラジオ波測定を行い超伝導転移現象を調べた。
この結果、モット絶縁体-超伝導体転移近傍におけるHc2が、最大で約90テスラ程度にまで達することがわかった。これは、超伝導磁石として現在最も普及している材料でありフラーレン超伝導体と同じく立方晶構造を持つNb3Snに比べて3倍程度と大きく、立方晶構造をもつ超伝導体のなかでは最大の値となる。さらに、この大きなHc2は、モット絶縁体-超伝導体転移に近づくとともにペアを組む電子間の引力が強められるために現れることも明らかになっている。
同研究グループは今回の成果について、分子性物質において超伝導の性能指数の高い材料開発につながる新しい指導原理を与えるものであると説明している。