宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月13日、SS-520ロケット4号機の打ち上げ失敗に関し、原因の究明結果を明らかにした。これによると、原因となったのは電源ラインでの短絡。軽量化のために変更した部分で電線の短絡が起き、大電流が発生。この結果、電源を分配する機器が故障し、ロケット全体で電源の供給が絶たれたという。
SS-520ロケット4号機は、本来2段式の同ロケットに新規開発の第3段を追加し、衛星打ち上げ能力を持たせたもの。重量3kgの超小型衛星を搭載し、2017年1月15日に打ち上げられたものの、約20秒後に通信が途絶えたため、第2段以降のシーケンスを実行しなかった。成功すれば世界最小の衛星打ち上げロケットとなるはずだったが、それは達成できなかった。
これらの経緯については、現地取材時の以下の記事を参照して欲しい。
機体の状態を伝えるテレメトリデータが20秒で来なくなってしまったため、事故原因の調査は難航・長期化も予想されたが、この1カ月弱の調査で、事故の状況がかなり詳しく分かってきた。
まずテレメトリデータを送信できなくなったのは、テレメータ送信機(TLM)の故障ではなく、TLMに対する電源異常であることを突き止めた。電波が途絶える直前、約3msの瞬断が10回発生しており、その波形を分析したところ、TLMの電源をオン・オフしたときに見られる波形と特徴が一致した。
またTLMのキャリア波が途絶した直後、コマンド復調装置(CMD)からのアンサーバックも届かなくなっていた。TLMとCMDはデータ収集装置(DAU)を介し、同じ電源系統で電力を得ているため、電源に異常が起きて同時に機能を喪失したと考えると辻褄は合う。
SS-520ロケット4号機には、主電源として28V電池が搭載されている。いくつかの装置には、バックアップ用の薄型電池も内蔵されていたが、TLMとCMDにはそれが無かった。通信途絶後もレーダーによる追跡はできていたため、レーダー送受信機は動作していたと見られるが、これは薄型電池から電力を得られる設計になっていた。
このことから、事故の原因は主電源の電源系統の異常と考えられる。問題は、それがどこで発生したか、だ。
今回、JAXAは「故障の木解析」(FTA)と呼ばれる手法を用い、原因の特定を行った。この方法では、まず発生した事象をツリーのトップに起き、その要因となり得る項目を列挙した上で、それぞれの可能性を評価する。事故調査等では一般的に利用される手法で、記憶に新しい昨年のX線天文衛星「ひとみ」の事故調査でも採用された。
電源異常の要因として挙げられたのは、電源ケーブルの短絡・地絡や、電線コネクタの脱落など。ケーブルやコネクタはいくつも使われているのだが、ここからさらに異常発生場所を特定する上でヒントとなったのは、もう1つ見つかっていた別の異常事象だ。
それは、第2段の側面に設置されていた歪センサの出力異常である。この出力が異常値を示したのはTLMの瞬断が始まる約0.4秒前。TLMの電源異常と歪センサの出力異常は別々の事象だが、発生した時刻が非常に近い。偶然では無く、関係していると見るのが自然だ。すると、ある場所が浮かび上がってくる。
歪センサのケーブルは、第2段の上側に格納されている搭載計算機(OBC)と繋がっている。歪センサはロケット外部の側面に設置されているため、ケーブルは電線の引き込み孔を通って外部に出ているのだが、この孔からは、主電源のケーブルも隣接して出ていた。ここで両者のケーブルの被覆が損傷したと考えれば、発生した現象を説明できる。
JAXAはこれを実験で確かめた。ケーブルは保護用にガラステープが巻かれていたが、飛行時の振動を模擬したところ、穴が開くことが分かった。またケーブルの摩擦に対する耐性を調べたところ、実機の飛行と同程度の総摩擦距離で被覆が損傷し、短絡が発生した。このことから、JAXAは事故の原因を引き込み孔での短絡と結論づけた。
ここで1つ疑問に思うのは、なぜこの場所で問題が発生したのか、ということだろう。4号機で大きく変更されたのは主に第3段の部分であり、第1段と第2段はほぼ従来通りだったはずだ。1~2段については過去に飛行実績があり、そのときは問題は起きていなかった。
ところが、4号機では主に軽量化を目的として、さまざまな変更が加えられていたという。たとえば、引き込み孔がある構造体の材質は、ステンレスからアルミニウムに変更された。結果的に、これで熱が伝わりやすくなってしまった。また電線は銅が使われているため重い。そのため4号機では、従来よりも細い電線に変更されている。
こうした変更を行ったのは、従来のままでは衛星を打ち上げるのに能力が足らなかったからだ。実験主任であるJAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授によると、「キログラム単位での軽量化が必要だった」という。今回の事故は、機体の重量をギリギリまで削ろうとして起きたものであり、その点では4号機特有の問題と言える。
原因を特定できたことで、気になるのは今後のことだ。4号機の実験目的は、民生技術を活用してロケットを開発し、その実証を行うことである。民生品の電子部品などは、主に第3段に搭載されていた。第3段はGPSで位置を計測し、イリジウム衛星経由でデータを送信する仕組みになっていたが、この実証は果たせていない。
再挑戦はあるのかどうか。羽生准教授は「何も決まっていない」ことを強調するが、もちろんJAXA側としては再挑戦の意志はあるだろう。それを表すように、JAXAは今回の原因に対する対策についてもまとめた。実験は、うまくいくかどうか分からないからこそ行うものだ。一度の失敗で諦めること無く、次回の成功を目指すべきだろう。
SS-520ロケット4号機打ち上げの現地取材記事
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 打ち上げは失敗! 第2段の点火を中止し、機体は海上に落下(速報)
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 打ち上げは直前に延期! 風向・風速の変動の大きさが問題に
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 射点で機体が公開、世界最小の衛星打ち上げロケットが姿を現す!
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