情報サービス産業協会(JISA)は2月16日、都内で「スポーツを進化させるICT」をテーマに記者説明会を開催した。今回、野村総合研究所(NRI) ICT・メディア産業コンサルティング部 副主任コンサルタントの滑健作氏が「スポーツ×ITの動向と展望」と題し、説明を行った。

野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 副主任コンサルタントの滑健作氏

冒頭、滑氏は「スポーツにおけるIT活用は、目的別に競技レベルの向上、ファン層の拡大、ファンのコア化の3種類に分類が可能だ。競技レベルの向上には要素分解と数値化による競技の可視化、そして得られた情報に予測、再現が必要であり、ITがこれらを可能とし、例としてデータ解析やトラッキングシステムの導入がある」と述べた。

また、ファン層の拡大について同氏は「競技会場と放送の2つのテーマがあり、これまで競技会場で行われる試合は単に実施するだけだったほか、テレビでは原則として一度しか放送していなかった。ITの活用としては競技会場で行われる試合だけでなく、すでに視聴者が保有するスマートフォンやタブレットなどの端末を活用し、満足度の高いサービスを提供する。また、放送に関しても生活の変化に伴いテレビを保有しない人もいることから、テレビに頼らないマーケティング、視聴環境の構築に取り組む必要があり、例えば施設内に無料Wi-Fiの整備などが挙げられる」と説く。

さらに、ファンのコア化に関しては「観戦者に観せることだけではなく、魅せることをITの利用で伝えていくことが重要だ。競技レベルの説明でも触れた要素分解と数値化がポイントなり、従来は一部の競技に精通した解説者や競技経験者でしか表現できなかった言葉を数字という共通言語で、可視化することができる。これにより、プロのレベルを伝えることで、深く競技を楽しみたい視聴者に提供することが可能だ。また、視聴者の意思で、例えばリプレイや複数角度の映像など、視聴者のニーズに対応した動画配信を行うことで、スポーツを楽しむ環境を提供することもできる」と同氏はいう。

「スポーツ×IT」の普及に向けた展望と課題

滑氏は3つのIT活用を踏まえ「今後の展望として、すでにSNSプラットフォームやAI、VR、EC、スマートペイメントなど、さまざまな分野で先進的なITが活用されており、このような既存の技術とスポーツを紐付けるだけで、3つの目的にマッチするものを消費者に提供できるのではないかと考えている。しかし、課題としては1つの競技チームだけでは大規模な投資が困難なことに加え、競技団体も旧態依然とした組織もあるため、新しい技術に対する親和性がない」と指摘した。

このような課題に対し、同氏は「スポーツと最新技術を有する研究機関やIT事業者が共通の目的に対し、ITをソリューションを提供していくことが、今後のスポーツ、ITの発展には必要不可欠なのではないだろうか」と語る。

この点について、同氏は「ITの活用はスポーツ競技者やファンだけでなく、IT事業者にも2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてスポーツ対する投資が活発化していることもあり、気運が高まっていることに加え、スポーツの各関連団体は意思決定単位が小さいことから、新技術のトライアルの場などを実施しやすいため、メリットがある。さらに、スポーツとITで培った技術は必ずしもスポーツだけにとどまらず、例えば選手の動きや瞬時の意思決定を改正してモデル化することは、製造業における職人の技術の伝承など、さまざま分野での応用が見込める。また、テニスやサッカーのライン判定システムに導入されている画像解析技術やAIは、銀行、保険をはじめとした与信、保険料算定などを行う際の第三者による機械的な判断を下すAIエンジンの開発の一助になるだろう。以上のことから、ITの活用とスポーツの組み合わせによる応用範囲は広い」と解説した。

スポーツ×ITの展望