理化学研究所(理研)と名古屋大学(名大)は2月15日、複数のプローブを同時に追跡できる新装置「MI-PET(multi-isotope PET)」を開発したと発表した。
同成果は、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター次世代イメージング研究チーム 福地知則研究員、渡辺恭良チームリーダー、名古屋大学大学院医学系研究科 山本誠一教授らの研究グループによるもので、2月7日付けの米国科学誌「Medical Physics」に掲載された。
PET(陽電子放射断層撮影法)は、生体内のプローブ分布を外部から非侵襲的に画像化できる技術で、プローブ量に対する感度が高く、解像度・定量性にも優れていることから、ライフサイエンス分野の基礎研究から医療施設での臨床診断まで、広く利用されている。しかしPETでは、プローブの標識に陽電子を放出する陽電子放出核種を用いるが、原理的に一度に単一種類のプローブしか画像化できないという課題があった。
そこで、同研究グループは、ある種の陽電子放出核種が、陽電子とともに固有の脱励起ガンマ線を放出する性質に着目。小動物用PET装置に、脱励起ガンマ線用のBGOシンチレーション検出器を8台追加し、PET検出器との同時計測が可能な装置「MI-PET」を開発した。
同研究グループはMI-PETを使って、陽電子のみを放出するフッ素-18(18F)と、陽電子に続けて脱励起ガンマ線を放出するナトリウム-22(22Na)の2種類のPETプローブを用いたイメージング実験を行い、PET本来の解像度や定量性を保ったまま、2つのプローブの識別が可能であることを確認している。
さらに、同研究グループは、マウスの尾静脈に18F-FDGというPETプローブを注射投与し、続けて22NaClを含む塩化ナトリウム溶液を経口投与した後、マウスの全身イメージング実験を行った。この結果、18F-FDGは、脳・心臓・腎臓・膀胱に、22NaClは、食道と胃に分布していることが一度の撮像で明らかになり、生理学的に予想される分布と一致していた。これにより、MI-PETによる複数PETプローブの同時イメージングが可能であることが実証されたといえる。
同研究グループはMI-PETについて、複数の疾患を一度の検査で調べたり、複数の薬剤の相互作用を解析するなど、基礎研究から臨床まで広い領域での活用が期待できると説明している。