東京工業大学(東工大)などは2月13日、分子フィルターの役割を果たすタンパク質結晶の細胞内合成に成功したと発表した。
同成果は、東京工業大学生命理工学院 安部聡助教、上野隆史教授、理化学研究所放射光科学総合研究センター 生命系放射光利用システム開発ユニット 平田邦生専任技師、山下恵太郎基礎科学特別研究員、京都工芸繊維大学 森肇教授らの研究グループによるもので、2月9日付けの米国科学誌「ACS Nano」オンライン版に掲載された。
多孔性の結晶材料は、内部に多数の細孔を有しており、ゲスト分子の貯蔵、分離や触媒反応場としての利用などさまざまな応用が可能な固体材料として注目されている。しかしながら、細胞内などの生体環境下で利用可能な多孔性材料の開発は、安定性や設計性の問題から達成されていなかった。
今回、同研究グループは、タンパク質が細胞内で自発的に結晶化する現象に着目。細胞内で多孔性空間を有するタンパク質結晶のテンプレートとして、昆虫ウイルス感染時に昆虫細胞内で合成される「多角体」とよばれるタンパク質結晶を用いた。
多角体はウイルス保護という本来の機能のため、乾燥、有機溶媒に高い耐性と極めて高い安定性を示す。そこで、同研究グループは、多角体タンパク質のアミノ酸側鎖を欠損した結晶を作成することにより、細胞内で選択的に分子を吸着するフィルター材料を構築。同結晶は、わずか3つのアミノ酸を取り除いただけの変異体だが、野生型では吸着しないアニオン性の蛍光色素を細胞内で選択的に吸着することを見出した。
同フィルターは細胞が生きたままでもターゲット分子を選択的に吸着させる点が特徴で、細胞内の解毒に威力を発揮することが考えられるという。また、タンパク質結晶は分子構造解析に用いられるため、細胞中で特定の分子を集積させることにより、これまで困難とされてきた細胞に内在する分子の構造や、それらの反応による構造変化を追跡する分子のカゴとしての利用も期待されると同研究グループは説明している。