東京医科歯科大学(TMDU)と東京工業大学(東工大)は2月8日、悪性脳腫瘍などの手術時に頻用される光線力学診断薬「5-ALA」によるがん幹細胞の検出を、がん幹細胞が免れる仕組みを備えていることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東京医科歯科大学難治疾患研究所幹細胞制御分野 田賀哲也教授、椨康一助教、大学院生のWenqian Wang氏、東京工業大学生命理工学院生命理工学系の小倉俊一郎准教授らの研究グループによるもので、2月7日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
がん幹細胞は、がんを構成する多様な細胞を生み出す能力と自ら複製する能力を持ち、従来の放射線化学療法に抵抗性を示すことから、がんの進展と治療抵抗性、再発に深く関わる責任細胞と考えられている。
一方、5-ALA(5-アミノレブリン酸)は、その代謝産物で蛍光を発する性質をもつプロトポルフィリンIX(PpIX)が腫瘍特異的に蓄積することから、悪性脳腫瘍などの摘出手術時に光線力学診断薬として用いられてきた。今回、同研究グループは脳腫瘍細胞について、フローサイトメータによる1細胞レベルでのPpIX蛍光検出系を開発し、5-ALAによるがん幹細胞の検出効率を検証した。
まず、脳腫瘍のなかでも頻度が高く予後の悪い悪性神経膠腫(グリオーマ)のがん幹細胞を用いて、5-ALA処理後に蓄積するPpIXの蛍光強度を比較。この結果、がん幹細胞は通常の大多数のがん細胞よりもPpIXの蓄積が少なく、検出が困難であることが明らかになった。さらに免疫不全マウスの脳内移植実験において、特にPpIX蓄積性の低い細胞群は、高い腫瘍形成能を有することが確認された。
さらに同研究グループは、PpIXが蛍光を発しないヘムへと変換される際に鉄が付与されることに着目。PpIXの蓄積に対する鉄のキレート効果を検証した。その結果、鉄キレート剤デフェロキサミン(DFO)と5-ALAを併用することにより、がん幹細胞におけるPpIXの蓄積が通常の大多数の細胞における蓄積レベルまで亢進することが明らかとなった。またがん幹細胞は、5-ALAによるPpIXの蓄積を回避して、手術時の検出を免れる利己的な代謝特性を有していることも示されている。
DFOは日本で承認済みの既存薬であり、同研究グループは、ドラッグ・リポジショニング を視野に入れた脳腫瘍診断薬への適応拡大が期待できるとしている。また今回の研究では、がん幹細胞の特性に影響を与える代謝関連因子として鉄以外にもヘムやHO-1の存在を明らかにしており、今後それらを標的とした新たな診断法と根治療法の開発も期待される。