東京大学(東大)は2月8日、光照射した極低温の半導体の絶縁体から金属への転移(励起子モット転移)の境界領域において、異常な金属状態が発現することを発見したと発表した。
同成果は、同大低温センター・大学院理学系研究科物理学専攻の島野亮 教授、同 関口文哉 特任研究員(当時)、同大物性研究所の秋山英文 教授、米国プリンストン大学らによるもの。詳細は「Physical Review Letters」に2月8日(米国時間)に掲載される予定だという。
半導体の電子正孔系で起きる絶縁体から金属への転移「励起子モット転移」は、半導体レーザーなどにも関わることが知られているが、独低温でどのように生じているのか、良く分かっていなかったという。
今回、研究グループは、波長0.3mm程度のテラヘルツ波を用いて、GaAsを対象に励起子モット転移の極低温での振る舞いを詳細に調査した。その結果、モット転移を経てできた極低温の金属的な状態は、電子と正孔間のクーロン引力の影響が金属相でも強く残っており、その結果として電子の有効質量が重くなり動きにくくなった異常な状態であることを発見したとする。
モット転移自体は、高温超伝導の発現機構にも関連するものとしてさまざまな研究が進められてきているが、光で作られた電子と正孔の系でこうした異常な金属状態を確認したのは今回が初めての例であり、モット転移の普遍的な性質を捉えたものと考えられると研究グループでは説明している。また、この異常な金属状態は極低温でのみ現れること、ならびに、その発現起源が電子と正孔の間のクーロン引力に因るものであることも確認したとのことで、研究グループでは、観測された異常金属相は約半世紀前に理論的に予言され、実験による明確な実証が待たれている電子正孔BCS状態の前兆現象である可能性が提示されたとしている。
なお、研究グループは、今後、この性質の解明がされていくことで、励起子モット転移の理解も進み、電子正孔BCS状態などの新しい電子相の探索や、その機能の開拓が進むことにつながることが期待されるとコメントしている。