国立遺伝学研究所(遺伝研)は2月3日、遺伝子のスイッチ機能をもつ「エンハンサー」の進化が、陸生動物の肺から魚の浮袋という大きな形態進化の背景にあったことを明らかにしたと発表した。
同成果は、国立遺伝学研究所 哺乳動物遺伝研究室 嵯峨井知子博士研究員、城石俊彦教授らの研究グループによるもので、2月3日付けの英国科学誌「Nature communications」に掲載された。
生物の形態進化には、アミノ酸をコードする翻訳配列の変化よりも、遺伝子の発現を調節するエンハンサーなど制御配列の変化のほうが深く関わっていると考えられている。これは、翻訳配列の変化は複数の組織において重大な影響を与えうるのに対し、特定の組織だけ働くエンハンサーの変化は他の組織への影響なしに形態変化を生ずるためである。しかし、そのような例が実際に示されることはまれであった。
今回、同研究グループは、魚の浮き袋が、陸生生物との共通祖先の原始的な肺から進化したという説に着目。陸生動物と魚類のゲノム配列を比較解析を行った。
この結果、形態形成に働くShh遺伝子を調節するエンハンサー配列が、肺を持つ陸生動物では体軸の腹側で活性を持つことがわかった。一方、浮き袋を持つ真骨魚類では、このエンハンサーが働かなくなっており、別のエンハンサー配列が体軸の背側で活性を持つことを明らかになった。したがって、肺から浮き袋への形態進化に伴い、エンハンサーの活性が腹側から背側へ転換したと考えられる。
同研究グループは、今回の研究のような、長い時間をかけて一度だけ起こった進化を実験によって検証する「実験進化学」は、ゲノムデータベースの充実やゲノム編集技術の発展などによって、これから急速に伸展することが期待されると説明している。