NTTは2月3日、同社グループのAI技術である「corevo」の1つとして、東京大学大学院医学系研究科医療情報学分野および、東京大学医学部附属病院企画情報運営部 大江和彦教授らの研究グループと共同で、約900人の糖尿病患者の電子カルテ・データを利用し、糖尿病患者の症状が悪化する原因の1つという患者行動である「受診中断」を予測するモデルを構築したと発表した。
新モデルは、患者行動に関連のある特徴量を基に機械学習技術で構築し、受診中断を7割の精度で予測するという。従来の研究では受診中断の要因を検討し、受診中断者の性別や年齢などの傾向は明らかにしていたが、同モデルでは積極的に支援すべき中断リスクの高い患者を個人の電子カルテデータを用いて抽出可能なため、医師による患者への効率的な介入を支援することが可能になるとしている。
同モデルの構築は、東大COI拠点(自分で守る健康社会 ~Self-Managing Healthy Society COI拠点~)における共同研究として実施。
同モデルの構築では予測精度を高めるため、東大の医療データ分析や臨床での患者への指導に関する知見を参考にして生成した特徴量と、corevoにおける機械学習に関する知見を基にしている。
同モデルは、電子カルテ・データやそこから生成した特徴量を入力して予約不履行(受診が途絶えるきっかけとなり得る予約外来の不受診)と受診中断リスク順位(将来の受診中断日までの日数の長さによる患者の順位付け)の2つを予測するという。
2011~2014年にかけて東京大学医学部附属病院に糖尿病の治療で通院している患者約900人の電子カルテデータを使用して同モデルにて評価した結果、予約不履行ではAUC(Area under the curve)が0.958、F値(陽性的中率と真陽性率の調和平均)が0.704、受診中断リスク順位では正解率0.706という予測性能を確認した。
この精度(F値)は、同モデルが不受診となった予約のうち、7割を予測できていることを意味するという。また、新たに予約登録日や予約日の曜日、予約登録日と予約日の間隔など、これまで医師が気付かなかった患者の予約行動に関わる項目が、予測に影響を与えているとしている。
予測結果を基に、受診中断を避けるために積極的に支援すべき患者の絞りこみや、支援を開始すべき時期の見極め、支援の度合いの調整が可能となることから、医師の診療支援、さらには患者の病態の維持・改善に繋がることが期待できるという。
今後の展開では、2016年2月に厚生労働省が認定した電子カルテ・データの標準規格であるSS-MIX2が普及し、大量の診療情報をAIで利用できる基盤が整いつつあるとする。同モデルは、このSS-MIX2標準化ストレージに準拠しているため、他の病院への展開が可能という。対象データの規模拡大により、精緻な予測モデル構築が期待できることから、2017年度から複数病院データベースでの受診中断リスク予測の評価試験を開始する。
将来的に、NTTは医療・健康に関するエビデンスをベースに病態悪化の予兆を捉え、患者の予防・健康づくりに向けた行動変容を支援する研究開発に取り組み、患者のQOL(Quality Of Life、生活の質)の向上や医療費増加の抑制など、社会課題の解決に貢献していく。さらに、生活習慣病予備群や健康な状態にある人への健康支援にも積極的に取り組み、多様なICTサービスと連携しつつ、健康社会の実現を目指す方針だ。