早稲田大学(早大)は2月1日、高分子ナノシートの柔軟性と密着性を利用して熱処理を用いない手法で電子素子を固定・通電させる封止技術を開発し、同技術を用いたデバイスを皮膚に貼り付けて安定的に通電させることに成功したと発表した。
同成果は、早稲田大学先進理工学部 藤枝俊宣講師、武岡真司教授、同大基幹理工学部 岩瀬英治准教授、同大創造理工学部 岩田浩康教授らの研究グループによるもので、2月1日付けの英国科学誌「Journal of Material Chemistry C」に掲載された。
近年では、ウェアラブルデバイスが普及しつつあるが、薄膜形成技術の進歩とともに、皮膚などの生体組織に絆創膏のようにして貼ることができる次世代型のウェアラブルデバイスが期待されている。このような絆創膏型のウェアラブルデバイスでは、貼り付けた際に違和感のないよう、電子回路を構成する素子を柔らかいプラスチック薄膜表面に取り付ける必要があるが、従来の電子素子の固定方法では、150~300℃の高温処理を要し、接合部が硬化するという問題があり、基材を薄くするほどに素子を安定に固定することが困難となる。
同研究グループではこれまでに、ナノシートの素材としてSBS(ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレン共重合体)を用い、「ロール・ツー・ロール法」と呼ばれる連続式印刷技術を利用することで、柔らかいSBSナノシートを開発していた。
今回の研究では、このSBSナノシート表面にインク吸収層をコートした後、家庭用インクジェットプリンタを用いて銀インクを印刷。印刷した配線上にLEDを載せ、別のSBSナノシートで挟み込むことでLEDを封止し、「SBSナノシート-インク吸収層-印刷配線-LED-SBSナノシート」の5層構造を作成して、皮膚に貼り付けた。
この結果、ハンダ付けなどの高温処理工程を用いることなく、ナノシートの柔軟性と密着性を利用して配線と電子素子を接続することに成功。ナノシートの膜厚を薄くするほどに、電子素子の密閉性は向上し、より小さい接触抵抗値で接続できたことから、印刷配線と素子の電気的接続はナノシート特有の柔軟性と密着性に由来することが明らかになった。さらに、SBSナノシートとLEDからなる厚さ約800nmのデバイスを皮膚に貼付したところ、LEDを安定に点灯させることができたという。
同手法について同研究グループは、耐熱性の低いプラスチック基材や電子素子に応用できるため、ICチップなどの精密機器の封止にも有用であるとしており、また電子回路の配線は家庭用のインクジェットプリンタで設計・印刷できることから、誰でも簡単に低コストで皮膚貼付型エレクトロニクスを作製できるため、学習用キットとしての利用も見込まれると説明している。今後は、ナノシート表面に回路・センサ・アンテナを集積することで、皮膚貼付型エレクトロニクスを開発し、健康医療・福祉・スポーツ科学分野への応用を進めていきたい考えだ。