玉川大学などは2月2日、脳領域間を伝わるスパイク信号を効率よく追跡する新手法を開発したと発表した。
同成果は、玉川大学脳科学研究所 礒村宜和教授を中心とした、同大学および福島県立医科大学、東北大学らの研究グループによるもので、1月31日付けの米国科学誌「Cerebral Cortex」に掲載された。
脳内の各領域に多数存在する神経細胞は、軸索を伸ばして遠く離れたほかの領域の神経細胞と結合し、複雑な神経回路を形成している。神経回路に組み込まれた各々の神経細胞は、ほかの細胞から受け取った入力情報をもとに、デジタル式の電気信号「スパイク」を発生させて、軸索を介して次の神経細胞にスパイク信号を出力している。
脳は、このスパイク信号を神経回路の配線を通して脳の各領域に伝えることで情報を処理しているが、さまざまな領域に出力する神経細胞が同じ領域内に混在しているため、領域間でどのようなスパイク信号がやりとりされているのかを観測することは、これまで技術的に困難であった。
同研究グループは今回、出力先の領域に達した軸索部を刺激してスパイクを人為的に発生させた際に、そのスパイクが軸索を逆行し、神経細胞の本体から出力先に向かって軸索を伝わってくる自然なスパイク信号と衝突し両スパイクが消失する「スパイク衝突」という現象に着目。これを利用して、多数の領域間の配線関係を並行して同定し、それらの配線を伝わるスパイク信号を同時に観測することができる「Multi-Linc法」を開発した。
同手法は、特定の光に応答するタンパク質分子を全脳の神経細胞に発現する遺伝子改変ラットに特定の光を照射することで、人為的にスパイクを発生させることができる光遺伝学的刺激法と、半導体製造技術で作られた多点電極を介して多数の神経細胞のスパイク信号を観測できる多細胞同時記録法を組み合わせたもの。
「Multi-Linc法」のイメージ。神経細胞の出力先を特定するためのスパイク衝突を並行して検出するために、多領域の人為的刺激と多領域のたくさんの神経細胞のスパイク信号の観測を組み合わせている(出所:日本医療研究開発機構Webサイト) |
実際に、同手法を行動中のラットの大脳皮質に適用することで、大脳皮質に存在し出力先の異なる2種類の神経細胞を、顕微鏡で軸索の行先を確認することなく同定するとともに、両者のスパイク信号の特性の違いや行動との関連性も見出されたという。
同研究グループは同手法について、マーモセット等の霊長類の大きくて複雑な脳の仕組みや働きを探る研究にも応用可能であるとしており、現在、コンピュータによる自動化の技術を採り入れることで、大幅な効率化と大規模化の実現を目指していきたい考えだ。